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2013/02/10

3) 衝撃をブロックする断震機能-関節内圧変動システム-

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昨今、地震対策の切り札として“断震”が脚光を浴びています。これは建物と地盤のあいだに空気を送り込むことで、ホーバークラフトのように建物を宙に浮かせる装置です。センサーが地震を感知すると瞬時に空気を押し出し、家屋を浮かせることで“震動を断つ”ことから、“断震”と名付けられています。

分かりやすいイメージとしては、『建物の下に敷かれた透明かつ巨大な風船が膨らむことで家を守る』といったところでしょうか。別名“エアー免震”とも呼ばれており、こちらのサイトでその映像を見ることができます。 

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エアー免震(平常時)作成中     エアー免震(地震発生時)作成中

実はこれと同じような“断震機能”が人間の関節にも備わっています。エアー免震では“空気”が主役ですが、関節では“水”が主役となります。関節は関節包と呼ばれる袋に包まれ、その中を水(関節液)によって満たされた準密閉構造になっています。これを“水風船”にたとえると、この中の水圧すなわち関節内圧が機敏に変動することで、関節を衝撃から守っているのです。関節に何らかのストレスが加わると水風船が瞬時に膨らみ、安静時にはしぼむといった具合です。

下の絵は、ひざにおける関節内圧の変化をシンボリックに強調したものです。(ひざの関節内圧は陽圧?陰圧?答えはこちら

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ひざの関節内圧(安静時)作成中   ひざの関節内圧(ふんばった際)作成中

ひざの関節内圧は太ももの力を入れると上昇し、力を抜くと下がることが分かっています。しかも「力を抜いたあとは瞬間的に初圧よりも低くなる」という現象が認められます。どういうことかと申しますと、たとえば大気圧と等しい状態にある関節内圧を便宜上0㎜Hgとします。このとき初圧が0㎜Hgの人が太ももの力を入れると10㎜Hg(陽圧)になり、力を抜いたあとは瞬間的に元の0㎜Hgではなくさらに低くなって-5㎜Hg(陰圧)になるのです。つまり0→10→-5という変動が見られるわけです。このとき、内圧の変動幅は15㎜Hg、上昇値は10㎜Hg、下降値は5㎜Hgということになります。

上記に倣ったある実験によると、ひざにおける関節内圧の変動幅は、正常な関節では19.8㎜Hgだったのに対し、変形性関節症(OA)では12.6㎜Hgだったという報告(いずれも被験者たちの平均値)があります。このとき“力を入れた時の上昇値”も、“力を抜いたときの下降値”も正常例のほうが大きかったという結果が出ています。下図はその平均値をグラフ化したものです。

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ひざの関節内圧(正常例の平均値)作成中   ひざの関節内圧(OAの平均値)作成中

つまり正常例では水風船を膨らませる力も、しぼませる力も強かったのに対し、変形性関節症ではその両方が弱かったということです。膨らませる力については筋力の問題として説明できるかもしれませんが、しぼませる力(内圧を下げる力)に関しては筋力では説明がつきません。

したがってこの結果から推考できるのは「変形性関節症の人たちは関節内圧を上げ下げする能力が落ちている-関節の断震機能が落ちている-」ということです。

こうした状態では何かの拍子で転びそうになって踏ん張った瞬間、ひざの内圧を十分に上げることができないため、関節軟骨への負担は相当なものになります。エアー免震で言えば、風船が十分に膨らまなければ-断震機能が落ちていれば-、建物に振動が伝わってしまうのと同じです。

階段を下りる際は足が接地してひざに体重が乗るたび、ひざの内圧をしっかり上げる必要があります。ところが、それができないと足をつく度に「ドンドン」と、ひざの中へ強い衝撃が加わることになります。一方で関節内圧の調節能力が維持されていれば、水風船が膨らむことでトントンとスムースに階段を下りることができるわけです。

このように変形性関節症の人は断震機能が落ちていることが類推されるわけですが、それでは“変形”との因果関係はどうなっているのでしょうか。つまり

①『関節の変形があるために、その結果として断震機能が落ちているのか?』
②『もともと断震機能が落ちている人に変形が起きてくるのか?』
③『その両パターンがあり得るのか?』

こうした疑問については医学的な検証が成されていませんので、確実なことは言えません。しかし、その背景に“ある要因”が存在することだけは確かです。エアー免震はセンサーが地震をキャッチすることではじめて起動するわけですが、実は関節にもそうしたセンサーがあります。私たちBFI研究会が治療のターゲットにしている関節受容器(センサー)は、関節に関わる様々な情報をキャッチすることが分かっています。

加速度、角速度、方向、張力等々の変化を感知していると考えられますが、なかでも、興味深い現象は、関節の角度によって内圧がさまざまに変化するという現象です。しかも角度と内圧の関係に一定の法則はなく、個人差が大きいことも分かっています。ひざを曲げていくに従って内圧が上昇→下降→上昇と変動する人もいれば、“下降→上昇→下降”タイプ、“下降→下降→下降”タイプ、“上 昇→上昇→上昇”タイプ、あまり変動しない“水平”タイプなど本当に十人十色です。なぜ人によってこんなにも違うのでしょう?

もし「内圧を感知するセンサーがない」と仮定すると、角度による内圧の変化は関節内の形状の変化すなわち物理的かつ機械的な変動ということになります。しかし、人によって関節の構造や形が極端に違うということはありませんので、この考えでは個人差が大きい現象-しかもバラエティに富んだ変化-を説明することができません。

一方で「内圧を感知するセンサーがある」と仮定すれば、センサーの感受性の個体差によるもの、あるいはセンサーに呼応した関節包の緊張出力に個人の癖-スポーツ歴や身体感覚などに起因する反応特性-があり、それによって内圧の変動パターンに違いが生じると説明することができます。
 
したがって、関節の断震機能もエアー免震同様にセンサーの働きによって制御されている-センサーの働きによって水風船が膨らんだりしぼんだりしている-のではないか。血圧が血管壁内にある圧受容器(センサー)によって感知されているのと同様に、関節内圧も関節センサーによって感知されているのではないか。私はそのように考えています。ただし、関節受容器は関節内圧の絶対的な数値を感知するということではなく、その“変化”に反応するようです。

このように関節受容器は内圧の変化を感知することで、周囲の筋肉や関節包の緊張を制御している(この働きを関節反射と言う)と考えられます。人体にある200を超える関節の全てに内圧があり、そのすべてが適切な圧力にコントロールされているのです。それでは、なぜ関節内圧というものがあるのでしょうか?

おそらく“重力”の問題ではないかと思われます。海中における水圧は物体にかかる圧力が四方から等しく加わります。他方、陸上では常に垂直方向への引力にさらされるため、重力に対して関節が平行の状態にあるのか、垂直にあるのか、斜めにあるのかによって、関節内の応力が変化します。

ひざであれば、立っている時は垂直荷重の圧縮力が加わりますが、寝ている時はせん断力が働きます。そういった応力の変化に柔軟に対応するため、センサー感知型の内圧変動システムを獲得したのではないでしょうか。

200数個の関節が一斉に内圧を変動させながら、人体のバランスを制御しているさまは“芸術的”ですらあります。もし関節内圧の変化を見ることのできる人体型ロボットがあったとして、関節内圧の変化を色の明るさで表現するLEDがあったとして、それが全ての関節に仕込まれてあったら、そのロボットの動きに合わせて200数個のLEDが絶妙に点滅するネオンサインとして眺めることができるでしょう。人間において同じようなことが可能になれば、運動システムの解明がさらに進むこと必定です。

ここで先ほどの疑問-『“断震機能の低下”と“関節の変形”はどちらが先に起こるのか?』-に戻りたいと思います。既述したように医学上の見解は不明ですが、私は②の『もともと断震機能が落ちている人に変形が起きてくる』可能性が高いと考えています。

関節反射の働きが低下することによって関節内圧の調節能力(=断震機能)が次第に落ちていき、その結果軟骨がより大きな衝撃にさらされることになり、そこに年齢、職業、内的因子などの諸々の条件が合わさった時、関節の変形が進んでいくのではないかと考えています。

なぜそう言えるのか?これまで述べてきたとおり陸上動物の関節は“抗重力装置”としての意味合いを強く持っています。抗重力装置が故障すると関節内部の応力を制御することができなくなり、その結果として関節の変形が起こるという流れは至極まっとうな気がいたします。

もしそれ以外の要因によって関節が変形し、そのあとに抗重力装置が故障するとしたら、臨床的に辻褄の合わないことが多すぎるのです。さらに、このあとに紹介する滑膜や関節軟骨の機能の面からも、やはり抗重力装置(=断震機能)の故障が出発点と考えるのが自然だと思われます。

変形性関節症はほとんどすべての脊椎動物に起こると言われていますが、逆さまにぶら下がるコウモリやナマケモノには起こりません。これは重力による垂直荷重の圧縮力を受けないからだと考えられます。

 

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