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2013/02/10

4) 関節軟骨の神秘-“知的衝撃吸収”機能-

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水と片栗粉をほぼ均等に混ぜ合わせることで生じる“面白い現象”をご存知ですか?容器の中でそれらをかき混ぜて半液状になっているものを、手にすくって強く握りしめると団子のように硬くなり、手のひらを広げると液状に戻って指の隙間から流れ落ちるという現象です。
 もっと大規模な仕掛けでは、巨大な水槽の中にそれと同じものを満たしておいて、人がその上を勢いよく走ると、沈まずに渡り切ることができるのに、ゆっくり歩こうとすると沈んでしまいます。

 このように弱い衝撃に対しては軟らかいままで、強い衝撃が加わると硬くなる現象を“ダイラタンシー”と言います。この性質を持ったものはダイラタント流体と呼ばれ、液体と固体粒子の混合物である場合が多く、たとえば砂浜の“濡れた砂”がこれに当たります。
 その原理は力が加わることで粒子間の隙間が小さくなると、液体成分が沈降して上側が固体になり、力が解除されると、それによって広がった粒子間に再び液体成分が浸透して元に戻るとういうものです。

 昨今この現象を体現させる画期的な素材がイギリスで開発されました。それが“d3o”というもので、何度かテレビで紹介されているので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。こちらの映像サイトで、テレビでの紹介シーンを観ることができます。
 d3oはまるでガムのような質感を持ち、粘土質であるため、ゆっくりと圧迫を加えるとぷにゅーっと凹みますが、カナヅチで叩くとまるで鋼鉄のようにビクともしません。強い力が加わった瞬間だけ硬くなるという性質を利用して、最近ではバイク・自転車・スキー・登山用のプロテクターなどの形で商品化されています。

           D3o1         D3o2

           d3o(つまむと軟らかい)       d30(灰皿で叩いた瞬間)写真提供:「旅館 こうろ 公式ブログ

 d3oの詳細な組成は企業秘密になっていますが、要は「物質を構成する分子同士が自由に動くようになっており、そのため通常は軟性体を示すわけですが、ひとたび強い衝撃が加わると、瞬時に分子同士が手を繋いで結束し、網目構造に変化して衝撃を吸収する弾性体に変化する」というものです。

 分子自らが衝撃の強さを感知して、互いの結束を変化させ、さらに力が解除されると復元することから“intelligent shock absorption”すなわち“知的衝撃吸収”と呼ばれています。

 さて、実は生体のなかにもd3oと同じ機能を持った組織があります。それが関節の中にある骨すなわち“関節軟骨”です。成人の関節軟骨は厚さ2~5ミリほどで、やや青みがかった白色で光沢があり、網目状に広がるコラーゲン線維のなかにプロテオグリカン集合体が埋まっている構造になっています。

 軟骨の構造についてもう少し具体的にイメージするには、大根おろしを作る場面を想像すると分かりやすいでしょう。おろし金でダイコンをすりおろす際、金網の穴の中に大根の繊維質が詰まってしまって、イラっとした経験をお持ちの方は多いと思います。このときのおろし金本体がコラーゲン線維で、穴の中に詰まったダイコンがプロテオグリカンです。コラーゲン線維は軟骨の形状を維持し、プロテオグリカンは高い保水能力を発揮します。

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        関節軟骨の組成と構造            関節軟骨の構造(イメージ)

 関節軟骨はこのプロテオグリカンの性質により、実にその80%近くが水分になっています。したがって関節軟骨は豊富な水を蓄えた多孔性物質ととらえることができ、関節内圧の変化や荷重による浸透圧差が生じるたびに、水分の移動が行われているのです。

 たとえば軟骨に荷重が加わると、その圧力勾配と浸透圧の上昇によって、水分が軟骨表面から関節液中へ浸出するため、その結果軟骨表面は凹むことになります。圧迫がなくなると、再び軟骨内に水分が吸収され、凹みも元通りに復元されます。このように水分の移動による変形復元システムがあるため、関節軟骨は水を含んだスポンジにたとえることができるのです。

 その一方で、急速に負荷が加わるジャンプ時などでは、軟骨の透過性を変化させる時間的余裕がないため、水分は閉じ込められたままとなります。豊富な水分を蓄えた軟骨は強い反発力を持つため、瞬時の強い圧迫に対しては凹みを生じさせることなく弾性体として機能します。つまり衝撃を加えられたd3oと同じ状態になるわけです。
 他方、長時間立ちっ放しのような状態では、荷重を受けている軟骨は時間とともにゆっくりと凹んでいき、荷重が解かれると元に戻るという変形復元が起こります。

 このように関節軟骨は水分の出し入れを行うことで自らの性質をd3oのごとく変化させ、個々の状況に応じた“知的衝撃吸収”機能を持っているのです。

 こうした機能は関節内圧の適切なコントロール下においてはじめて成立するものであって、内圧の制御ができなくなれば、水分の出し入れをスムースに行うことができず、軟骨に大きなストレスがかかることになります。
 このことも、前章における「変形性関節症では内圧制御の乱れが先行してその後に変形が起こる」という当方の主張の根拠の一つになっています。

         Noimage_200x133_3           Noimage_200x133_3

        液体で飽和された多孔性物質           圧迫による変形

 

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