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2013/02/10

6)潤滑オイルの自動交換システム-滑膜B型細胞の“受容分泌吸収”機能-

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関節液は潤滑液としての役目以外に、軟骨に栄養を供する働きも担っています。そのため関節液には血液ろ過液(毛細血管から滑膜を通って浸み出してきた血清成分や細胞成分など)とともに、もちろん主役となるヒアルロン酸も含まれます。

また関節液中には細胞組織や結合組織の挫滅組織片などの代謝産物つまり老廃物も混在するため、これらは滑膜に吸収されて処理されます。下図がその分泌と吸収(注入と排出)の概念図です。

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関節液の分泌(作成中)  関節液の吸収(作成中)


ここで問題となるのは注入と排出のバランスです。この両者の平衡が維持されていれば、関節液は常に一定に保たれるわけですが、それが崩れると定量オーバー(関節水腫)あるいは不足という事態になってしまいます。しかも究極の摩擦係数を維持するため、同時にその“質”も保証しなければなりません。つまり液量と粘度の両方を一定に保つ必要があるわけです。

温泉のように、源泉の注ぎ口と排水管が別々にあれば、注入と排水の経路に疑問の余地はありません。また毎分ある一定量が注がれ、それに合わせて湯船から溢れ出たものが自然と捨てられるという状況であれば、注入量と排出量の関係も単純明快です。

しかし関節の場合、蛇口と排水口が同じ場所(両方とも滑膜)にあるため、流入と流出の関係が温泉のように単純ではありません。さらに蛇口は開きっぱなしなのか、何かのタイミングで開くのか、どういう頻度で注がれるのか、そしてどういうタイミングで排水されるのかという点においても、関節の機能はあまりに複雑すぎて、医学的にも未解明の部分が多いのです。

BFIの臨床効果および関節受容器の組織学的特徴や働きを踏まえ、関節液の代謝メカニズムに対して、私は一つの仮説を持っています。もちろん科学的な立証はなされていませんが、とりあえず現時点における私の考えを披歴させていただきたいと思います。

当初、関節液の分泌と吸収についていろいろ調べてみましたが、私が求めるものはどうしても見つかりませんでした。そこで思い至ったのが「機能的に似ている他の組織ではどうなっているのだろう?」ということでした。そこに何らかのヒントがあるかもしれないと考えたのです。

で、まず頭に浮かんできたのが“脳脊髄液”です。

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脳脊髄液(作成中)  脳脊髄液の循環(作成中)


《2)振動を吸収する制震機能-脳を守る骨格ダンパー-》においても解説していますが、脳脊髄液(以下“髄液”と略す)はいわば液性クッションとして、脳・脊髄全体を守っています。それ以外の役割としてはいろいろ言われていますが、はっきりしたことは分かっておりません。

髄液は無色透明の液体で、主に脳の中心部にある小さな空間(脳室の脈絡叢)から分泌され、脳・脊髄のすべてを覆って循環しています。排水に関しては、脳のてっぺんにある小さな袋(クモ膜顆粒)やクモ膜下腔の静脈やリンパ管などを通して吸収されます。髄液の全容量は130~180mlくらいですが、1日に分泌される量は約500~600mlなので、入排出のバランスから1日に3~4回ほど入れ替わる計算になります。

髄液は密閉された空間(クモ膜下腔)の中を流れていますので、当然内圧-髄液圧-があります。これは力んだり、咳をしたり、内頸静脈を圧迫すると容易に上昇します。実は髄液の注入と排水のバランスは、この内圧によってコントロールされていることが分かっています。髄液圧が112㎜Hgのとき、注入と排水が等しい平衡状態にあり、これより圧が上がると排水量が増加し、圧が下がると排水量が減少することで常に一定の量を保っているのです。

つまり髄液は24時間供給状態にあり、排水だけでバランスを取っていることになります。「蛇口は開きっ放しで、排水口の開閉だけで調節している」というイメージです。そのため脳や脊髄の至るところに吸収スポットがあり、通常の排水量の数倍にも及ぶ予備能力を持っています。

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次に“眼房水”について考えてみたいと思います。これは眼球のなかで、角膜と水晶体のあいだを満たしている無色透明の液体で、栄養の供給と老廃物の回収を行っています。

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眼球の構造(作成中)     房水の流れ(作成中)


ビーチボールは空気が入っていなければただのビニールです。空気が入っていくにしたがって、徐々にボールらしい球体になっていきます。眼球もまったく同じで、その内要物(房水・水晶体・硝子体)の圧によってふくらみを維持しています。水晶体と硝子体による圧はほぼ一定と見なすことができますので、ビーチボールの空気の増減に相当するものが“房水量の増減”になります。

房水の全容量は0.3~0.33mlで、1分間に約2.5μL(=0.0025ml)生産され、およそ2時間で入れ替わります。房水は水晶体の厚さを変える筋肉(毛様体)から分泌され、虹彩と角膜のあいだ(隅角)から排水されます。このとき隅角が狭くなったり、排水口のフィルター(繊維柱体)が目詰まりを起こすと、排水量が低下します。
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その結果、房水がパンパンに膨れ上がった-眼圧が高くなった-状態が続くと、緑内障の誘因になると言われています。ちなみに『眼圧の上昇=緑内障』ではないので注意が必要です。「眼圧が高くても緑内障に至らない」あるいは「眼圧が正常でも緑内障を発症している」といったケースがあるからです。

眼圧はサーカディアンリズムの影響を受け、日内変動(午前中が高い)や季節変動(夏に低く、冬に高い)があり、肥満や高血圧などで高くなる傾向があります。

実は房水も脳脊髄液と同様に「蛇口は開きっ放し」であるため、その量は排水側でコントロールされています。房水の排水管は厳密には“線維柱体”と“ぶどう膜強膜”の2経路があり、前者を主経路、後者を副経路と呼びます。主経路での排水量は眼圧に比例して増減されますが、副経路のほうは常に一定すなわち調節能力がありません。そのため眼房水の排水に関しては脳脊髄液ほどの予備能力はないと言えます。
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眼圧は10㎜Hgを超えると、圧の上昇に比例して排水量が増えます。その結果、多くの人は10~21㎜Hgの範囲内にコントロールされており、医学会ではこれを“正常眼圧”としています。

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ここまで見てきたとおり、脳脊髄液と眼房水の共通した特徴は『蛇口は開きっ放しの状態にあり、内圧の変化に合わせて排水作業を行うことで、その定量を維持している』ということでした。

この事実を念頭に置いたうえで、いよいよ関節液のほうを見ていくことにします。

まず、その“量”についてですが、部位によって異なります。ひざと指の関節ではその大きさがまったく違うので当たり前の話ですが。たとえば、ひざの場合ですと、1~2mlと言われています。しかし、1分あたりどのくらいの量が分泌され、どのくらいの時間で入れ替わるのかといった細かい数字は分かっておりません。関節液に関しては「分泌され、吸収される」という事実が分かっているだけで、脳脊髄液や眼房水ほどには詳しく解明されていないのです。

蛇口と排水口の詳しい位置関係についても、実のところよく分かっていません。これについて少し詳しくお話しさせていただきます。

前述のとおり、関節包の内側にある滑膜というところが注ぎ口にあたります。この滑膜表面にはマクロファージ様のA型細胞と線維芽細胞様のB型細胞の2種類が分布しおり、関節液は後者のB型細胞で作られ、分泌されます。そして関節液の吸収も同じB型細胞が行っています。つまり1つの細胞が蛇口と排水口を兼ねているということになります。

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ひざの断面図(作成中)   滑膜のB型細胞(作成中)


では、B型細胞はどのようなメカニズムで注入と排出を行っているのでしょう。そもそもB型細胞自身が本当に1人2役で、その都度注入と排出を交互に行っているのでしょうか?それとも同じB型細胞でも注入専門と排出専門の2種類のタイプに分かれるということなのでしょうか?私は後者の可能性が高いと考えています。

その理由として「蛇口開きっ放しの法則」があります。関節にとって「関節液の“不足”あるいは“空”」という事態は絶対にあってはならないことです。水量をコントロールするとき、蛇口側にハンドルやレバーを設けてしまうと、万が一ハンドルが回らなくなった場合に取り返しのつかないことになります。
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もし蛇口が開かなくなったら-関節液がなくなったら-、軟骨への栄養供給が途絶え、関節内圧が限りなくゼロに近づき、軟骨は強大な摩擦力にさらされ、関節機能は間違いなく廃絶するでしょう。

神様が人体の設計図を描くとき、「そんな危ういシステムは絶対に創らない」と、私は考えます。関節液は常に“かけ流し”にしておいて、排水口の開閉だけで調節するというやり方が鉄則だと思うのです。事実「脳脊髄液と眼房水がそうであった」ように。

したがって、この法則に当てはめると、自ずと“1人2役”の可能性が消えます。1つの細胞が注入と排出を交互に行うというスタンスでは“かけ流し”はあり得ないからです。
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以上の理由から「B型細胞は注入専門と排出専門の2種類のタイプに分かれる」と考えられます。であれば、そこには両者を分かつ何らかの違いがあるはずです。組織学的にそのような違いは見つかっているのでしょうか…。実は見つかっているのです。

昨今、熱刺激などから細胞を守る熱ショックタンパクの1つ“Hsp25(heat shock protein25)”が、ラットやマウスの顎関節滑膜B型細胞に特異的に現れることが発見され、これをマーカー物質として利用することでB型細胞の形態がよりはっきりと見えるようになりました。
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その結果、滑膜表層を埋めるB型細胞は「重層上皮様に配列する部位」と「単層に配列する部位」に分かれていることが判明したのです。私は前者の「重層を形成する細胞群」が“注入タイプ”で、後者の「単層配列の細胞群」が“排出タイプ”ではないかと推測しています。
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もちろんこれはあくまでもラットなどのげっ歯類における結果ですので、そのまま人間に当てはめてもいいのかという疑問は残ります。しかし、少なくとも「ひとつの根拠」にはなり得るでしょう。

実は上記の研究成果には、もう一つ重要なものが含まれていました。それまでB型細胞は“単純な円形構造”と考えられていたのですが、実際には関節腔に向かって伸びる細胞突起を持っていることが分かったのです。

これはたいへん意義深い発見で、現在ではB型細胞自身が関節液の成分を検知するセンサーとして働いている可能性が指摘されています。この形態は“パラニューロン”を想起させるものであり、関節液の粘度を感知するセンサーとして働き、その結果を踏まえた関節液を分泌、あるいは吸収するという極めて特殊な細胞である可能性が見出されているのです(パラニューロンについてはこちら)。

さて、ここでいったん、これまでの私の見解を整理しておきます。

①関節液の入排出システムにおいては、脳脊髄液や眼房水と同様に「蛇口開きっ放しの法則」が当てはまる。
②注入は滑膜B型細胞の「重層上皮様に配列する群」が行う。
③排出は同細胞の「単層配列群」が行う。

以上を踏まえると、関節液においてもやはり排水口の開閉システムが鍵を握っているということになります。これについて、私は『基本的に脳脊髄液や眼房水と同じで、やはり内圧の変化に沿った調節であろうと考えています。

ただし関節の場合、そこには独自のセンサーシステム(関節反射)が備わっています。関節受容器が内圧の変化と関節包の緊張レベルを同時に感知することで、それらを連動させる形でコントロールしているのです。
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次章において、いよいよ“関節受容器”と“内圧”と“関節液の入排出”の絶妙なる連係システムについて、その核心に迫ってまいりたいと思います。



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