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2013/02/10

5)関節軟骨の神秘-驚異の摩擦係数-

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摩擦の強さを表す指標に“摩擦係数”というものがあります。たとえば、テーブルの上に重さ1㎏の氷が乗っています。この氷をヒモで結えて水平方向に引っ張ります。このとき氷が動き始めた際の引張力が同じ1㎏なら、摩擦係数は“1”と表現されます。もし、半分の500グラムの力で動いたとすると、摩擦係数は0.5です。したがって摩擦係数は低ければ低いほど「摩擦が小さい」と言えます。

機械工学の領域においては、金属同士で
0.30.8、金属とプラスチックで0.10.2くらいが限度で、それ以上の摩擦係数を作り出すことはむつかしいとされていました。

しかし、昨今の技術革新は目覚ましいものがあります。パソコン内のCDやDVDといったディスクは毎秒20メートルの速さで回転します。そのためディスク表面の信号を読み取るヘッドの摩擦係数はかなり低く抑えられています。近年指先に載るほどの小さなディスクドライブ装置が開発され、これを携帯電話の中に入れるため、摩擦係数をさらに小さくする必要性に迫られました。そこでヘッドの表面をナノメートルスケールで凸凹にしたところ、なんと0.02以下まで下げることができたそうです。

実は純粋なツルツル面よりも電子顕微鏡レベルでの複雑な凸凹があったほうが、摩擦係数を小さくさせることが分かっているのです


関節軟骨の表面は光沢があってツルツルしており、光学顕微鏡でも“なめらか”に見えます。しかし電子顕微鏡で見ると、表面に凹凸のあるメッシュ構造になっていることが分かります。これは4)“知的衝撃吸収”機能でお話したとおり、軟骨表面がコラーゲン線維の網目組織と保水性能を持つプロテオグリカンの多孔性組織によって作られているためです。つまり先ほどのヘッドと同じようになっているわけです。


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軟骨の表面(作成中)    電子顕微鏡による軟骨の表面(作成中)

それでは関節軟骨の摩擦係数はどのくらいだと思われますか?ここまでの文脈からして「ヘッドの数値(0.02)とかなりいい勝負なのでは?」と予想される方も多いと思います。
 その答えは動物の関節でなんと“0.002以下!”人間の場合“0.006前後!”と言われています。いい勝負どころか、桁が違うわけです。これはもう摩擦係数としては驚異的な値で、ほとんど摩擦がないような数字です。

ただし、前述した軟骨表面の性状だけでは、これほどの摩擦係数を生み出すことはできません。関節内は潤滑材の役目を果たす水に満たされており、これを関節液と言います。「関節内にホルマリンを注入して人工的に関節炎を起こさせる」という実験では、関節液の性状が激変し、摩擦係数が8倍に達したという報告があります。このことから究極の摩擦係数を創出しているのは『関節液の性状によるところが大きい』ことが分かっています。

一般に関節液は“水”と表現されます。“水が溜まる”とか“水を抜く”といった具合です。たしかに関節液には水分も含まれますが、実際には“水”とは違います。その性状は車のエンジンオイルに近いもので、適度な粘調を帯びています。これは関節液の主成分である粘性物質(ヒアルロン酸やムチン)の性質によるものです。この粘性こそが関節の摩擦係数の“産みの親”なのです。

したがって、関節液の粘度は厳重に管理されています。関節液は関節包の内側にある滑膜というところで作られ、古くなったものは廃棄され、新鮮な液が順次補充されます。温泉にたとえると“源泉かけ流し”です。温泉の場合溢れたお湯は下水に捨てられますが、関節液の場合は古くなった成分は血管に入って肝臓で処理されます。車の場合、定期的なオイル交換の必要がありますが、関節液は自動交換システムになっているというわけです。このような仕組みがあるおかげで、関節液は劣化することなく至適な粘性を保っていられるのです。

ところが、先ほどのホルマリンの実験のようにひとたび炎症が起こると、関節液中のヒアルロン酸の濃度が減少するため、摩擦係数が急上昇します。関節は新鮮な液を補充することで、粘度を回復しようと努めますが、先の実験では6週間後に至ってもなお10~20%の係数増加を示していたそうです。

摩擦が大きい状態が続けば、当然軟骨は摩耗しやすくなります。江戸時代と違って、現代人の関節は80年以上の耐用年数が求められるわけですから、関節液の粘度を保つことは運動器にとって死活問題と言えます。

それでは、この粘度を維持するためのメカニズムすなわち関節液の分泌と吸収はどのように行われているのでしょうか。そのあたりを次章でもう少し詳しく見てみたいと思います。

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