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腰痛-③整形外科の歴史と慢性痛-

2011/10/23

整形外科の歴史と慢性痛

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運動器
の慢性痛(腰痛や肩こりなどに対する初期医療は、欧米の先進諸国ではプライマリケア医が担っています。いわゆる“家庭”が初診を担当し、投薬その他の保存療法で様子を見て、必要があれば手技療法整体やマッサージなど)の治療家を紹介し、手術適応と考えられる症例には整形外科を紹介するといった流れになっています。

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日本では整形外科が初期医療から手術までを一貫して診ています。実はここにある事情が内包されています。整形外科の医師はあくまでも手術が専門の“外科のスペシャリスト”です。大学の医局で学ぶほとんどの対象は“手術”です。保存療法については関連書籍を読む程度で、本格的に学べる医局は極めて少ないのが現状です。

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整形外科医の多くは手術のプロであって、保存療法のプロではないわけです。

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ところがひとたび開業すると、そこに来る患者さんの99%は保存療法が対象の人たちです。したがって整形外科医は開業してはじめて保存療法を実践し始めるということになります。

つまり日本では“手術のプロ”が、開業してから保存療法のプロ”を目指すという図式になっているわけです。

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欧米では先述したように、多くの場合プライマリケア医が最初に診察したうえで、そこから必要に応じて専門機関に振り分けるシステムがあるので、それぞれのプロがそれぞれの状況に見合った形で患者さんを診る流れができているわけです。

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そのため、日本でも整形内科医(保存療法のスペシャリスト)やプライマリケア医を増やしていこうとする動きがあります。

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このように国際的な視点で日本の整形外科を眺めると、その特殊性がお分かり頂けると思います。症例を単独の科で一元的に管理するシステムは、ある意味優れた診療体制と言えなくもないのですが、保存療法がメインとなる慢性痛腰痛や肩こりなど)に限って言えば、手術の専門家が終始一貫して管理するという体制は十分に機能しているとは言い難い面があるのです。

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ただし慢性痛におけるより根源的な問題は診療体制云々とは別次元のところにあります。これについては整形外科の歴史を遡って考える必要があります

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中世のヨーロッパでは、脊椎カリエス、くる病、外傷などによって肢体不自由となった子供たちの社会生活への復帰が問題となっていました。そうした状況に一人のフランス人医師が立ち上がります。1741年、Nicolas Andryという内科・小児科医が「L'Orthpedie」という本を著したのです。Orthは「正しくまっすぐ」、pedieは「子供」という意味です。

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この本は子供の骨格の変形を予防し、かつ矯正する方法について書かれています。この医学書こそが「整形外科」のはじまりだといわれています。

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日本では、1906年(明治39年)、東京帝国大学の田代義徳教授がOrthopedieを訳す際「整形外科」という言葉を造語して、現在に至っています。

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このように、子供の骨格異常を正すことから生まれた整形外科は、その後大きく成長し、はるかに多くの問題を扱うようになりました。現在では小児から大人に至るまで、人体の運動機能のほとんどを診るようになり、その範囲はほぼ全身におよびます。そしてその中心に脈々と受け継がれているものは

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          『目に見える形態の異常を本来あるべき姿にもどす』
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ということです。先天性の骨格異常があれば、矯正装具あるいは手術で正常な形にもどす。骨折に対しては整復し元どおりの形にもどす。腱や靭帯の断裂があれば縫合して元にもどす。こうした「もどす」という作業には

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          『組織の修復をもって人体の機能を回復させる』
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という意味があります。また、整形外科は20世紀におきた2度にわたる世界大戦によって飛躍的な発展を遂げたといわれています。兵士らが負った悲惨な外傷-骨折、銃創、上肢や下肢の切断など-や感染症に対応するなかで、さまざまな知恵と技術が生まれました。こうした経験が近代整形外科の礎になっているのです。

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本においても、戦前戦後の整形外科では、小児の骨格異常のほかは骨折や脱臼といった外傷の治療をメインに行っていました。つまり「痛み」という観点から言えば、慢性痛よりも外傷に伴う急性痛を診る機会のほうがはるかに多かったのです。したがって当時は慢性痛の研究者など存在せず、さらに言うならば研究どころか、そもそも慢性痛という概念すらなかったのです。

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それでは、慢性痛という概念はいつ頃どのようにして生まれたのでしょう。実は意外にも近年のことであり、しかもこれを
見出したのは整形外科ではなかったのです。

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1960年代、麻酔科の一部の医師が「ペインクリニック」を開設し、痛みの専門外来を設けた際、いろいろな治療をしても消えない痛み、つまり慢性的に続く痛みを発見しました。この痛みを「
慢性疼痛」略して慢性痛と命名したのです。

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痛み研究の先駆者として名高いBonica博士は、その著書「Management of Pain」のなかで
  『慢性痛とは、疾患が通常治癒するのに必要な期間を越えているにもかかわらず訴え続けられる痛み』
と述べています。

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同じころ、整形外科でも同様の痛み-慢性的に続く運動器の痛み-を認知し始めていましたが、当時は外傷の痛みであれ、慢性的な痛みであれ、基本的には同じメカニズムのものであると認識されていました。つまり
  『外傷の痛みが何らかの原因で長く続いているのが慢性痛である』
という考え方です。

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通常はけがそのものの修復が完了すれば同時に痛みも消えます。外傷の痛みは「生命維持への警告サイン」といえますので、患部が癒えればそのサインを出す必要がなくなるからです。ところが、患部自体の修復作業が終わっているのに痛みだけが残っている。これが慢性痛だと考えられていました。

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したがって、整形外科ではどのような痛みに対してもまず画像検査を行い、どこかに骨の損傷はないか、あるいは過去に傷ついた痕跡はないかと探します。

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ところが、患者さん自身にけがをした覚えがまったくない場合、「慢性痛は外傷の延長線上にある」という考え方は通用しません。転んでもいないし、ぶつけた覚えもないという患者さんに対して、「あなたが思い出せないだけで、本当はどこかで捻ったのではありませんか」というような論法では、とうてい無理があるわけです。

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そこで登場したのが、いわゆる金属疲労ならぬ「
筋肉疲労」という考え方です。使い過ぎ、動き過ぎ、働き過ぎが原因というわけです。ところが、実際には肉体的な負担がない人たちにも痛みは生じます。すると、今度は「筋力低下」や「姿勢異常」という概念が登場しました。

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その一方で、肉体的な要因をどうしても見出させない人々に関しては、心の問題が指摘されるようになり、とくに1990年代以降は、肉体的な問題だけでは運動器の痛みを合理的に説明することはむつかしいとされ、
心理社会的因子-社会生活を営む上で、個人が背負う様々なストレス要因-をより重視する声が高まりつつ現在に至っています。

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整形外科はその生い立ちや発展の歴史からも明からなように、その治療目的は元来“形の正常化”と“組織の修復”です。

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とくに60年代以前、整形外科医が経験する痛みの多くは「組織の損傷を知らせる警告サイン」でした。そのため痛みに対しては「
副産物に過ぎず、組織が修復されれば消える」という程度の認識しかなかったのです。

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ところが、こうした警告サインとしての役割をもたない痛み- 慢性痛- が
発見され、20世紀後半における先進諸国の高度経済成長が続くなか、運動器の慢性痛が爆発的に増えた結果、整形外科の苦難の歴史が始まることになります。

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多くの慢性痛では、その理由となるべき患部の変化が見当たらない。痛みの原因として本来あるべき傷がないわけです。基本的に「組織の損傷を修復することを生業としてきた整形外科」にとって、それは未知の痛みでした。

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そのなかの最たるものが腰痛といえます。いろいろなタイプの腰痛があるなかで、「患部の変化が見当たらない腰痛」が一番多いからです。治療する機会の多さを考えれば、腰痛こそが整形外科医にとっての最大の謎-
未知の痛み-だったといえるでしょう。

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しかも患部の変化が見当たらない腰痛に対しては、その治療に情熱を傾ける医師が極めて少なかったのです。臨床において大きなウェイトを占める腰痛に対して、整形外科医はなぜ熱くなれなかったのか。

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整形外科の生い立ちを知っていただいた皆様には、もうお分かりいただけると思います。「修復すべき傷が見当たらない」ということはすなわち「
治療すべき対象が見つからない」ということです。極言すれば、「本来あるべき傷」がない時点で、整形外科の仕事ではないと言ってもいいほどです。

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その一方で、「本来あるべき傷」が見つかった腰痛に対しては、整形外科の腕の見せ所といえましょう。存分にその技術-手術-を発揮することができるのですから。

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ところが、この一番得意にしているはずの腰痛に対しても、悩ましい現実が待ち受けていました。原因と考えられる形態異常や損傷を修復してもなお、痛みが消えない場合があったのです。

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「本来あるべき傷」が見つかって、それを手術で治したにもかかわらず、痛みが残ってしまう。あるいは再発してしまう。こうなってくると整形外科としては完全にお手上げです。訳が分からない。こうした整形外科の混乱は、実に1990年代の半ば頃まで続きました。

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