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椎間板ヘルニア-⑩物理的な圧迫≠炎症の発生-

2011/12/24

⑩物理的な圧迫≠炎症の発生

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そもそも椎間板ヘルニアには解剖学的に大きな謎があります。椎間板の目の前にある神経根は前根(運動神経)で、その向こう側に後根(感覚神経)という位置関係ですから、椎間板が膨瘤したり、髄核が飛び出れば、まっさきにぶつかるのは前根なのです。

                                Herunia2_7

    Herunia 

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ですから普通に考えればヘルニアで圧迫されるのは前根すなわち運動神経ですから、症状は筋力低下といった“運動麻痺”になるはずです。前根には交感神経の遠心性線維も入っていますので、これが障害を受けると直腸膀胱傷害もおこり得ます。

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しかし現実には「麻痺などの症状が一切なく痛みを訴える」ヘルニア症例が大多数を占めます。痛みだけが発生するヘルニアというのは、人体の構造と明らかに矛盾する現象なのです。

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なぜ前根の後ろに隠れている後根が圧迫されるのか?と研究者に尋ねると、「機械的な刺激に対する感受性が前根は鈍く、神経節(DRG)のある後根は鋭敏だから」と答えます。しかし前根が相当に押し潰された状態にならないと、その後方にひかえる後根まで圧迫力が伝わるはずがありませんので、ヘルニアの全症例に明らかな運動麻痺がなくてはおかしいわけです。それを“感受性”の問題として片づけてしまうのはかなり無理があると言わざるを得ません。

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さらにもうひとつ重大な事実があります。

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神経根は硬膜・クモ膜・軟膜の三重の膜によって保護されており、さらにくも膜下腔を満たす脳脊髄液-液性クッションによる保護作用および栄養供給を担う無色透明の液体-によって守られている

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ということです。

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脳脊髄液の主任務は中枢神経を守ることだと考えられていますが、例外的に末梢神経の一部も保護されているわけです。そのなかのひとつが“神経根”であり、視神経などもこれに含まれます。おそらく人体にとって“不可侵”の存在-重要な神経-はより厳重に守られるようになっているのでしょう…。

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Sinkeikon

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こうした神経根の解剖学的特徴を象徴する事実関係があります。神経根レベルの障害においては知覚だけの麻痺をおこしてくるものはほとんどないという事実です。“知覚鈍麻”や“錯感覚”はありますが、“知覚脱失(触覚、圧覚、痛覚などの完全な消失)”のみというケースはほとんどありません。当然です。上図のように後根(感覚神経)だけを圧迫することは物理的に不可能だからです。

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   ※知覚鈍麻…触覚や痛覚などが鈍い状態。AKA-博田法やBFI によって回復することがあるため
                           脱落症状とは言いきれない。
      ※錯感覚…虫が這うような、冷水に浸したようなといった知覚障害。これも上記と同じ理由で
                         脱落症状とは言いきれない。

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本物の知覚麻痺が現れるのは脊柱管レベルで馬尾神経そのものが圧迫されたとき-馬尾症候群-だけです。たとえばサドル麻痺(肛門会陰部の知覚消失)がこれに当たります。

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前頁で説明した「髄核そのものに物理的な圧迫力は存在しない」という私論を踏まえれば、神経根の障害によって麻痺をおこしているケースについては髄核以外の要因(おそらくもっと硬質な組織による圧迫)を考えるべきです。その場合の麻痺は上図からも明らかなように、圧迫の標的になるのは前根ですから、その中に入っている運動神経と遠心性の交感神経が障害された結果すなわち運動麻痺あるいは直腸膀胱傷害といった形で現れます。

このような物理的な原因による麻痺に対しては早期の手術で解決する場合が多いと思われます。

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一方、物理的な圧迫とは別次元の要因-おそらく化学的な因子-によって神経根自体に炎症が発生した場合、前根と後根の両者に炎症が波及し、DRGのある後根側により甚大な影響が現れます。研究者が言うところの“DRGの感受性亢進”というのは最初に化学的な刺激があって、その結果として機械的な刺激に敏感になるのだと私は考えます。

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神経根の解剖学的な状況を顧慮すれば、後根やDRGに機械的な刺激が直接加わる事態は想定しにくいので、DRGが敏感な状態に変質する理由については化学的な要因を考えるほうがより現実的です。

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化学的な因子によって神経が変性すると、その結果として物理的な圧迫をはじめとする機械的な刺激に敏感になってしまうため、本来は許容範囲内であるはずの刺激が異常事態になり得るというのが、至極まっとうな話の筋道です。このように考えてはじめて、ハネムーン麻痺や遅発性尺骨神経麻痺などの“化学因子不在のケース”における「無痛性かつ無炎症性の麻痺」との整合性が得られるわけです。

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それに対して「物理的な圧迫が炎症を引きおこす」という短絡的な論理には、現象-圧迫があっても炎症をおこさない例-を説明するための障壁が残されており、いまだにそれがクリアにされていない以上「そこに合理性は認められない」というのが私のスタンスです。

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したがって「神経根の炎症は化学的な因子が原因であって、物理的な圧迫によって発生することはない」と、私は考えます。

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神経因痛疼痛の臨床で問題になることが多い疾患-たとえばギラン・バレー症候群、帯状疱疹後神経痛など-は物理的な原因ではなく化学的要因(免疫代謝系の問題)によって引きおこされます。

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神経が炎症をおこすという現象は化学的因子を第一に考えるべきなのです

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三叉神経痛においても、蛇行した動脈による接触(これからは“圧迫”ではなく“接触病変”と言い改めるべき!)という物理的な刺激を考える前に、化学的な因子に目を向けたほうがその病態が分かりやすくなるはずです。

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神経根の炎症においては免疫代謝システムが正常に働けば、多くは自然治癒します。しかし不幸にしてRSDが発生すると、神経の委縮を招いて麻痺をおこし、しかもこの場合の神経の変性は回復しにくいということが言えるのです。

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こちらで紹介したとおり、ヘルニアと痛みの関係は静的時間軸で考えると混乱してしまい、その本質が見えづらくなります。動的時間軸による考察によってはじめて合理的な解釈が成り立ちます

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「神経の変性≠痛み」の章で論及してきたとおり、真の神経痛(異所性発火による痛み)は一瞬発作性の現象ですので、ヘルニア症例において慢性痛が前景に立てば、それはまったく別次元の生理現象だということです。

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だからこそ形の変化を見るだけの画像診断-静止画像による静的時間軸での診断-では痛みの原因が分からないのです。昨今では炎症の有無を見極めることができる画像検査が開発されつつありますが、それとて万全とは言えません。

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要は動的時間軸の考究によってはじめて顕現するRSDを見極め、その発生をいかに防ぐかということが臨床上もっとも大事なことなのです。

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末梢神経の圧迫≠痛み」のページで詳解したとおり末梢神経の障害の原則はヘルニアにも完璧に当てはまります。すなわち「単純な圧迫で痛みは発生しない」と同時に「単純な圧迫で神経の炎症はおこらない」という同義的な論証が成立します。

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ただ、それ以前の前提として、髄核の物理的エネルギーは取るに足らないものであり、そもそも圧迫という問題が存在するケースはヘルニア全体のなかで極めて少数であり、もし本当に圧迫があればその症状は痛みではなく麻痺であるということ、これが椎間板ヘルニアの鉄則です。これに尽きます。

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今回のポイントの整理!

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①神経根の位置関係からして、後根(感覚神経)だけが圧迫されることはあり得ない(馬尾症候群を除く)。

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②神経根の炎症は化学的な因子によるもの。物理的な圧迫のみで炎症はおきない。

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③ヘルニア症例においては麻痺が前景に立てば本物。慢性痛が前景に立てば偽物。

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          ⑨髄核の脱出≠圧迫 Prev Nexxt ⑪椎間板の変性≠痛み(その1)

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