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椎間板ヘルニア-⑧神経の変性≠痛み(その5)-

2011/12/22

⑧神経の変性≠痛み(その5)

《トップページ》
末梢神経自身が変性(炎症)下にあるとき、そのプライオリティーの最上位にあるものは自らの修復作業です。機能を回復させることこそが最優先事項なのです。

狭いトンネル(神経)内の復旧工事にとって、一番厄介な状況はあくまでも地震の発生(機械的な刺激)だと言えます。通常の現場では震度4を超えてくると作業の妨げになるというのは前々回にお話ししたとおりです。ただし三叉神経痛のケースのように特殊な変性下にあるトンネルでは震度1~2程度の余震でも作業の中断を余儀なくされます。

そのため大きな余震が発生すると、自らの緊急回線を使用して脳に報告することで「もう少し安静に願います」というサインを出すわけです。あくまでも変性(炎症)の回復を阻害する異変を知らせることに意味があるのです。通常レベルの余震であれば現場に混乱はおこらず、作業は粛々と進められていくだけですので、いちいち脳にクレームをつける必要などまったくありません。

変性下の神経にとって最優先されるべきことは自らの修復であって、脳にクレームをつけることではないのです。

神経は変性して脱髄をおこすと自ら異所性発火をおこす

という現代医学の主張に対しては、

それはあくまでも実験モデルでの話であって、実際の臨床ではめったに遭遇するものではない。百歩譲って本当に異所性発火(スパイク放電)が発生したとしても、その100%が脳の痛み中枢に辿りつくという保証はないし、仮に到達したとしても現実の生体では痛覚として醸成されるとは限らない。

そもそもシナプスには活動電位をそのまま次のニューロンへ伝えるべきか否かを判別して、不要な信号を通さないという“関所”としての顔がある。ニューロンの信号が痛み中枢に辿りつくまでは、数か所に設置してあるシナプスという関所を突破しなければならない。現代医学が主張する異所性発火のすべてがこの関所を通過するとは限らない。

あくまでもその時々におかれた神経生理の許容範囲を超える衝撃(機械的な刺激)を受けた際の異所性発火だけが脳に痛覚をもたらす

と、私は考えます。

現代医学は人間の痛みを原因別に分類すると以下の通りだと言っています。

     ①侵害受容性疼痛

            侵害受容ニューロンの末端センサーが感知した痛み

     ②神経障害性疼痛

            a)末梢神経由来…末端センサーを介さずに神経コード本体から発せられる痛み。

                        その典型例が異所性発火(神経痛)。

            b)中枢神経由来

     ③心因性疼痛

            精神的な原因という可能性も含め、現状の医学で説明し得る病変を見いだせない痛み。

脳に被害個所を知らせて回避行動をとらせるための痛みです。

②a)に関してはこれまで述べてきたとおり神経コード本体に被害個所を知らせる能力がない前々頁のNSMSにおいて説明済み)ため、自らの緊急回線を使って信号を送ったところで、脳は被害の発生現場を特定することができません。その意味はあくまでも地震速報であり、その症状は一瞬発作性の電激痛ということになります。ですから、私はそれ以外の多くの慢性痛まで神経痛だとする現代医学の見解に賛同することはできません。

の臨床においてはb)は稀少例であり、a)が大多数を占めます。さらにa)のうちの多くが慢性痛であり、その実際が神経痛でない以上、結果として②の痛みは希少例であると言うことができます。

当シリーズ(神経の変性≠痛み)の序文で、現代医学は指揮者のいないオーケストラのようなものだと申し上げました。交響曲「神経痛と異所性発火」の演奏に対し、私が壇上に上ったなら「慢性かつ持続性の神経痛(異所性発火)などというものは存在しない」という解釈のもとにタクトをふるでしょう。

であれば当然そこには「“坐骨神経痛”は幻の概念であり、慢性痛に対しての常套句-神経の圧迫で痛みが出る-も消えゆく定め」という解釈が含まれることになります。臨床上“坐骨神経痛”と言われる症例のほとんどは慢性痛であり、三叉神経痛のごとき一瞬発作性の強烈なる電激痛を訴える例は稀です。

仮に三叉神経痛と同次元の異所性発火が坐骨神経におきたならば、人間は一歩たりとも動くことはできないでしょう。歩くどころかほとんどすべての動作に「脳天を突き抜けるような電激痛」を伴い、身体機能は間違いなく廃絶します。

これは本物の三叉神経痛を経験した者であれば容易に想像できることです。あの現象が臀部~下肢におこったら、「その場に固まったまま、まったく微動だにできない」状態になることは自明の理というものです。

私は痛みの臨床現場に20年以上いますが、そんな症例に出遭ったことは皆無ですし、そういう事例があるという話も聞いたことがありません。

三叉神経痛ほどではないにせよ、臀部~下肢の発作性激痛を訴えるケースはもちろんあります。しかし、それとて神経痛とは言えません。私がこれまで行ってきたAKA-博田法やBFI の臨床効果において、そのほとんどが『神経因性疼痛ではない』ことが立証されているからです。

神経の圧迫が長時間にわたってゆっくりと進んだ場合、つまり徐々にトンネルが小さくなっていくと、やがて工事は中止に追い込まれます。現場に大きな地震がなければ、神経は身の危険をを察知することなく-異所性発火をおこすことなく-変性が進行し、やがて麻痺となるのです。したがってこの場合は痛みを一切引きおこすことなく、神経は静かに眠りにつくことになります。ハネムーン麻痺もギプス固定中の麻痺も遅発性尺骨神経麻痺(骨折の変形治癒後の麻痺)も、その症状に痛みはないのです。

ただし例外があります。それがCRPS(RSDやカウザルギーなど)と呼ばれる疾患群です。CRPSという特殊な病態が発生しない限り、末梢神経の圧迫によって生じる伝導障害はあくまでも“麻痺”という症状がメインであり、“痛み”が前景に立つことはありません。

そのほかの絞扼性神経障害(神経の圧迫が原因でおこる疾患群)においても、麻痺以外の所見(痛みやしびれ)をすべて神経由来だと決めつけてはいけないということです。

典型的な絞扼性神経障害による痛みやしびれと診断されたもの-坐骨神経痛や胸郭出口症候群など-でも、AKA-博田法やBFI で消えという事実があるからです。

私が“慢性神経痛”の存在を否定する源泉には「厳然たる臨床の現実」があるからにほかなりません。これ以上の確信はないのです。実際におきている現象がすべてなのですから。

RSDやカウザルギーといった問題がなければ、神経障害の所見はあくまでも麻痺-脱落症状(知覚の脱失や固有筋の収縮ゼロ)-であって“痛み”ではありません。もし痛みがあれば神経以外の要因(CRPSその他)を考えるべきです。

神経障害の臨床では以下のパターンの違いが最も重要だということです。

      ◆神経⇒長時間の圧迫⇒変性⇒麻痺

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      ◆神経⇒変性⇒一瞬、発作性の電激痛(異所性発火による痛み

                ⇒持続性、慢性的な痛み(異所性発火とは別次元の痛み

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      ◆神経⇒変性⇒RSD⇒痛み(持続性⇒《交感神経の機能不全による血流障害》⇒麻痺

つまり『物理的な圧迫による麻痺には痛みは存在せず、RSDから生じている麻痺には痛みが絡んでくるということです(RSDについては章をあらためて解説します)。

今、本当に“神経痛”という概念そのものを根底から見直す時期に来ています。EBMの誕生に象徴されるように、現代は医療の大転換期なのだということをどうかご理解いただきたいと思います。

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