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椎間板のパラダイムシフト(前編)

2014/04/22

椎間板のパラダイムシフト-trans-function 理論-(前編)

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前回は「椎間板原因説」の矛盾について、私見を述べさせていただきました今回は従来にないまったく新しい視点で脊椎の運動システムを論じると同時に、“椎間板の変性”という医学的概念そのものに疑義を唱え、近い将来実現するであろう椎間板の再生医療に対して私なりの提言をしたいと思います。

はじめに椎間板の変性が始まる時期について、近年の知見をご紹介いたします。2003年スコットランドの研究者Francis W.Smith博士らによって衝撃的な論文が発表されました。同国北東部に住む10歳の小児154人(腰痛の既往歴がない無症状の子供たちに対して、腰椎のMRI検査を行ったところ、およそ1割(9%)に明らかな椎間板の変性が見つかったというものです。

各国メデイアは「驚くべき調査結果」と報道し、「脊椎の変性は我々の推測よりもはるかに早期におきていることが分かった」というSmith博士のコメントを伝えました。

さらにスイスのNorbert Boos博士も自著(2002年の研究論文)において、次のように述べています。

「我々は腰痛疾患のなかった胎児〜88歳の献体解剖例と14歳〜68歳までの腰痛疾患の手術症例を分析し、新生児期から高齢期までの椎間板の変性過程について詳細な検討を行った。その結果、椎間板の変性は症状の有無に関わらず加齢とともに進行しており、3~10歳の小児の椎間板において血管の閉塞や終板の変性が、11~16歳の小児に至っては椎間板自体の亀裂や断裂が認められた。椎間板の構造上の崩壊は非常に早い時期から始まっており、こうした変性は椎間板の宿命と言える」

つまり人間の椎間板は3歳頃から変性の兆候を示し始め、10歳から本格的な変性が始まっており、こうした変性は痛みとは無関係に進行していたという報告です。

この研究論文は医学界に二重の意味でのショックを与えました。一つは変性の始まる時期が想像以上に早いということ。そしてもう一つは先に紹介したSmith博士の研究対象も無症状の子供たちであり、EBM(根拠に基づく医療)の観点からは“椎間板原因説”の土台が完全に揺らいでしまったと言える点です。
                                                ※⇒EBMとは?

Boos博士は腰痛関連のノーベル賞と言われるVolvo賞を受賞しており、「我々は画像所見と症状が相関しないことを知っている。我々が治療すべきは患者であって、MRI写真ではない」という名言を残している人物です。

今(2014年)となってはBoos博士らの功績を知らない研究者はいないと思われ…、ということはつまり、現代医学は「椎間板の変性と痛みのあいだに絶対的な関係性はない」ことを知りながら、それでも尚、椎間板研究に多額のマネーを注ぎ込んでいるわけで…。いったいなぜ?その理由について、私なりの推断-かなり穿った見方(偏った憶測)-は以下の通り。

再生医療技術の進歩が目覚ましい昨今、椎間板はそのターゲットとして魅力的なマーケット。脊椎にとって椎間板が極めて重要な“部品”であることは間違いないのだから、もはや椎間板と痛みの関係は主要な問題とは言えない。痛みがあろうとなかろうと、“部品の若返り”はそれだけで大きな意味を持つ。

ただし、研究費を得る-研究意義をアピールする-ためには「椎間板が潰れて痛みが出る」という常識を世間に残しておいたほうが何かと都合が良い。研究に有利な環境を維持できるし、近い将来、再生医療を望む患者の声を利用しやすくなる。いざとなれば患者の切実な求めだという大義名分が成り立つ


そしてこの論理の延長線上に椎間板ヘルニアがあります。これもまた無症状のヘルニアが多数あることを知りながら…。医学界の思惑はまるで未必の故意…。

とは言え、私の趣意、使命は現代医学の在り方を批判することにあるのではなく、痛みに対する新しい解釈(痛み記憶の再生理論)を発信するところにあります。


「痛みという感覚、クオリアはあくまでも脳で創られる」。この原則を無視して構造的な視点のみで痛みの概念を完結させようとする論理に整合性はない。

たとえば神経痛という概念…。基礎医学上の根拠“異所性発火”と現実の臨床モデルの乖離に関して、脳科学の知見に基づいて紐解いていく-末梢神経の変性と中枢との真の関係性を見極める-ことが私の命題…


願わくば、当記事を最後までお読みいただいた一般の方に、「椎間板の変性…。それがどうかしました?」という認識を持っていただければと…。そして研究者の方には「なるほど、たしかにパラダイムシフトだ…」と感じていただければ…。

ただし、読了し終えたあなたに、もしそうした認識の変容が起らなかったとしたら、それは当方の説明能力の未熟あるいは私の思考プログラムのエラーに原因がありますので、どうかご容赦いただきたいと思います。

それではいよいよ私論“トランス・ファンクション理論”の幕開けです。

はじめに、下図(建造物における地震対策の最新技術)をご覧ください。これが椎間板の未来を切り拓く鍵となります。

   (※当記事における全ての画像はクリックすると拡大表示されます

 

Menseisin

(一般に建物自体を頑丈、堅牢なものにする概念-柱を太くする、鉄筋の量を増やす等-を“耐震”.と言い、建物に振動を吸収する装置を組み入れる概念を免震あるいは制震と言う)

いかがですか?これを見て何か連想するものはありませんか?私には建築と人体骨格のあいだに何らかの共通点があるように思えてなりません。そうした直感と共に降りてきたインスピレーション(想像図)を下に示します。
                      《 左はreal picture。 右がmy image

   Tuikan9_4   Oildampa_2

上図において、椎間板と積層ゴムが相似関係にあることは、椎間板のバイオメカニクスと積層ゴムの構造および変形特性を鑑みる-興味のある方はネット上で情報を拾えます-ことで容易に想像できます。一方、椎間関節がオイルダンパー(振動を吸収する制震ダンパー)だとするmy imageについては、少々解説が必要と思われます。

私は当サイトにおける「関節7つの精密機能シリーズ」で、地震工学における建築学を引き合いに出して、「人間の脊椎は脳を守る骨格ダンパーである」という自説を掲げています(詳細はこちらのページ)。その概略は以下の通り。


 (仙尾椎を1個にカウントした場合)25個の椎骨から成っている脊椎は、骨同士をつなぐ連結部分(椎間板と椎間関節)それ自体が衝撃吸収装置になっており、全体のS字彎曲構造と最下部にある仙腸関節の機能と併せて、骨格全体が言わば“免制震ダンパー”として機能している
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Kokkakudanpa3 .
第一頸椎(環椎)を除外した脊椎を24階建てのビルにたとえると、中央が大きな空洞になっており、その空洞を挟んで前方(A棟)のフロアが円形、後方(B棟)のフロアはY字型を呈している。このビルはこれまで観測されたことのないような超巨大地震にも耐えるよう設計されており、全てのフロアの床と天井のあいだ、すなわち各階を挟むようにして23個の免制震装置が取り付けられている。前方のA棟には優れた減衰性能を発揮する積層ゴムが、後方のB棟には自らの変形(すべり運動)によって振動を吸収する層間ダンパーが左右2ヶ所に一対となって装備されている。このときA棟の積層ゴムが“椎間板”であり、B棟の層間ダンパーが“椎間関節”である


昨今の地震工学は様々なタイプの制震ダンパーを生み出していますが、椎間関節の機能を説明する上で、最も近いと思われるものを下に示します。

Panelokok
上の制震ダンパーでは、鋼板の間に高減衰ゴムなどの粘弾性体が挟み込まれており、これがせん断変形を生ずることで振動エネルギーを吸収します。これと人間の椎間関節では構造上は異なって見えますが、その機能、役割を俯瞰すると、実は極めて似ていると言えるのです。その理由は以下の通り。


椎間関節は粘液(関節液)で満たされた準密閉構造になっており、構造的には内圧制御による油圧式ダンパー(オイルダンパー)に近い-これについては改めて後述する-が、機能的には上記のパネル型粘弾性ダンパーと見なすことができる。その理由は上図における粘弾性体の役割を果たす組織が、関節では自身の外側に何重にも束になって貼り付いている点にある。つまり振動を吸収する粘弾性体が上図のダンパーではその内側に、関節ではその外側にあるという違いであり、関節の場合それを“靭帯”と呼ぶ。

靭帯は関節を包む袋(関節包)の一部が強靭化したものである(なかには膝の十字靭帯にように“内”にあるタイプもある)。一般には関節を守る補強部材のように思われているが、実際は極めて弾性に富んだ伸縮部材である。

靭帯は膠原線維(コラーゲン)、弾力線維、細網線維で構成される線維組織と、線維間の摩擦を減少させるゼラチン物質でできており、なかでも弾力線維は2倍以上に伸びることが分かっている。この弾力線維は脊柱の靭帯(項靭帯や黄色靭帯など)に多く含まれる。

実は椎間関節の制震ダンパーとしての機能を解くカギは黄色靭帯にある。この靭帯は長らくその形態が不明であった。複雑な靭帯走行を完全に解明するためには骨から分離する必要があるが、黄色靭帯を切り離すと、この靭帯特有の弾性により線維方向に短縮してしまうため、その原形を窺い知ることができなかった。しかしポリエステル樹脂による包埋処理によって、分離後の原型観察が可能となり、その全容をようやく知ることができたのである(⇒解剖学における詳細報告)。

その結果、黄色靭帯はこれまで考えられていたような平板構造ではなく、左右に羽をひろげた蝶形の立体構造になっており、なおかつ近隣の椎間関節包靭帯および棘間靭帯と連結して一体構造を成していることが分かった。手関節のTFCC同様、三位一体の複合靭帯の体をなすことで3次元外力に対応しており、脊椎におけるせん断応力や圧縮負荷に抗する理想的なダンパー機能を体現していると言える。下にその概略図を示す。

Tuikanoushoku
上図を見ても今ひとつ分かりにくいという方は、解剖学者が描いた本物の解剖図(椎間関節を取り巻く靭帯の走行が手に取るように分かる)を是非ともご覧いただきたい。⇒こちらのページ

このように黄色靭帯、椎間関節包靭帯、棘間靭帯の3者による粘弾性体としての機能を俯瞰すると、もはや椎間関節そのものが強力な粘弾性体と見なすことができ、後に述べる内圧制御の仕組みと合わせて、言わば“パネル型粘弾性油圧式”複合ダンパーとして働いていると推論できる。

解剖学者の報告によれば、脊椎全体における起立時と横臥時の長さの差は1.5~3.0cmに達すると言う。この数字から椎間関節一個あたりの変動幅を考えてみよう。全ての椎間関節が均等に“縮む”と仮定-実際にはあり得ないと思われるが-して計算すると、椎間関節一個当たりの伸縮幅はその総数《環軸関節(C1/2)を除く23個》で割った数字となる。つまり最大で【30mm÷23≒1.30mm】となる。

この13 mm という数字をどのように捉えるべきか。これをより“リアルにイメージする”最良の方法は自分自身が背丈1 mm の小人になった状態で椎間関節を眺めればよい。目の前にある巨大な2層パネルが自分の身長と同じくらい縮む様は、まさしく圧縮負荷を吸収するダンパー(サスペンション)そのものである…。

そのうえで軽くジャンプして着地した際の椎間関節がどのように動いているか想像して欲しい。百歩譲ってひとつひとつのダンパー機能が極めて微小だったとしても、脊椎全体での椎間関節の総数(23×2=46箇所)を踏まえ、その全体像を総覧すれば、荷重時の衝撃や振動を吸収しているという私見を否定することはむつかしいと思われる。

であれば、椎間関節は従来考えられていたような単なる“関節”ではなく、脊椎の動きを制限、支持すると同時に、“制震ダンパー”としての機能も兼備していると考えられる


一般に建物に使用されるオイルダンパーでは、シリンダー内部のオイルによる粘性抵抗すなわち摩擦力を利用して振動を吸収しようとするものですが、かたや関節内部のオイル(関節液)は摩擦力をなくすための滑液ですので、オイルそのものが持つ役割は正反対と言えます。

しかし関節の場合、“準密閉空間にオイルが満たされることによる内圧”を維持しようとする働きこそが結果的にオイルダンパーとしての機能を創出していると言えるのです。

関節はオイルが満たされることで水風船のごとく内圧-脳脊髄液や眼房水と同様の内圧-を作り出しており、激しい運動に耐えて内圧が一定に保たれる仕組みが備わっています。そうした内圧制御システムを支えているのが関節受容器(関節センサー)であり、これが僅かな振動や加速度を検出することで、事前に関節靭帯や周囲の筋緊張を変える働き(フィードフォワード制御)を担いつつ、関節液量の変化を感知して内圧が一定に保たれる仕組みを創出しているのです(三上の仮説)。

こうした関節受容器の働きは、ちょうど車のボディへの衝撃を感知したセンサーがエアバッグを開かせるのに似ています。歩行時、足が地面に接地した際の衝撃(振動)をキャッチすることで、その瞬間ごとに椎間関節の内圧調整が行われます(“超小型エアバッグ”が開きます)。エアバッグを膨らませるのは空気ですが、関節包を“膨らませる”のは関節液(オイル)です。すなわち関節内圧を一定に保つことと関節液量を一定に保つことは同義であり、このシステムに破たんを来たすと、例えば膝に水が溜まるといった現象(関節水腫)が引きおこされます。
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このように内圧を一定に保とうとする-関節液量を一定に保とうとする-働きを関節反射と言います(三上の解釈)が、椎間関節が油圧式ダンパー(オイルダンパー)だとする私見の根拠はまさしくこの反射機能にあるのです。人間がジャンプして着地した際、椎間関節に加わる圧縮負荷に対しては、この関節反射が働くことではじめて制震ダンパーとしての機能を果たせるのです。

こうした働きは姿勢制御にとっても重要な意味があります。関節受容器は4種類あることが分かっており、そのうちのTypeⅠ(ルフィニ小体様神経終末)は加速度センサであるというのが筆者の考えですが、準密閉構造をとる関節に加速度上の変化が加わると、同時に内圧も必ず変化します

椎間関節が左右に2ヶ所ある理由は何なのか?おそらく左右における加速度微差を中枢が解析することで結果的に内圧差を測算することになり、その違いを演算処理することで姿勢を制御しているのではないか、というのが私の仮説です。

ちなみに関節神経学を確立したことで知られるBarry Wyke博士は「TypeⅠは関節内圧に刺激される」と述べていますが、TypeⅠの実態はあくまでも加速度センサであり、その解析過程において副次的に“内圧変動”も感知されるのであろうと私は考えています。
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Tuikansensa
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腰背部の筋が挫傷すると、痛みのために動きが制限されることはあっても姿勢感覚障害が現れるという話は聞いたことがありません。しかし、実験的に脊椎の関節受容器を切除すると姿勢感覚障害が現れると報告されており、これが事実とすれば、脊椎の動きを制御する椎間関節46個の全てが一斉同時に、協調的に内圧を維持しようとすることではじめて人間の姿勢が保持されると言えます。そういう知られざる超精密な反射機能があるおかげで、私たち人間は2足歩行することができるのです。

関節反射については、拙論「関節受容器によるフィードフォワード制御理論」を是非ともご一読いただきたいと思います。従来言われているような脊柱起立筋による姿勢制御というものが、その反応スピードの観点からいかに不完全であるかは倒立振子の実験-倒立振子を立たせるために必要なコンピュータの出力応答速度は運動ニューロンの伝達速度よりはるかに速い-から明らかです。

筋受容器によるフィードバック制御のみでは時間的に“間に合わない”ため、理論上姿勢を保持することは困難です。よって、「関節受容器によるフィードフォワード制御」が潜在する可能性は十分にあるというのが私の考えです。

                      関節受容器によるフィードフォワード制御理論

               
Touritusinsi22     《倒立振子の実験装置》
Pend4    Manntest1  Bfi000_3     
 
(提供:鹿児島大学工学部電子制御室)
       BFIの理学検査(マンテスト)   BFIの技術(8ヶ所の棘突起を同時に触る。
                                             8×2個の椎間関節に間接的に加えられる同時
                                             多発的な内圧微変動が中枢解析を賦活する)
     
(※マンテスト…患者は閉眼して平均台の上に立つ姿勢を10秒間維持。その際の揺れ具合を評価)
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マンテストはパイロットの身体航空検査でも使われますが、この検査の被験者が前後にバランスを崩すことはほとんどありません。たいていは横方向です。

私が開発したBFIという技術では、施術後のマンテストの回復が認められます。この事実は椎間関節における内圧微変動が姿勢制御に変化をもたらす可能性を示唆しており、先ほど紹介した三上の仮説(左右の椎間関節の内圧差による中枢制御)を裏づけるものです。もっとも患者さん自身は「触れているだけなのにどうして?」と不思議がるばかり…。まあ、無理もないことですが。

ちなみにBFI は痛みの治療として開発された技術ですが、マンテストの回復と痛みの改善は必ずしも一致せず、比例もしません。この事実は運動機能と痛みを切り離して考える視点の重要性を諷示するものです。私が痛みのソフト論(痛み記憶の再生理論)を掲げる背景には「運動機能(可動域・協調性・持久力等)の回復と痛みの改善が必ずしも一致しない」という臨床データの蓄積があります。

話を元に戻します。

人間の脊椎を倒立振子に見立てると、興味深い視点が湧き立ちます。倒立振子においては自らの傾きを感知するセンサーはその基部に1ヶ所あるだけですが、かたや人間の脊椎には、椎間関節(46ヶ所)と仙腸関節(2ヶ所)の合計48箇所にセンサーが配備されており、これらによる同時広域連鎖的な感知システムによって、個別の神経速度の遅さをカバーしてあまりある反応速度を体現しているのではないか…。私にはそのように思えてなりません。

こうして眺めてみると、人間が2足歩行するためのシステムには、姿勢制御の観点からは倒立振子の制御が、衝撃吸収の観点からは脊椎の骨格タンパーが内臓されている…、そんな姿が私の眼には映るわけですが、実はもうひとつ別の姿を捉えています。それが、“五重塔”です。
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        Hokkegojuu_2                           Gojyunoto
       (千葉県市川市の法華経寺の五重塔)            (奈良県生駒郡の法隆寺の五重塔)

日本の仏教建築を代表する五重塔は全国各地に建立されていますが、歴史上地震による倒壊例がほとんどないと言われています。なかでも法隆寺の五重塔は世界最古の木造建築(ギネス認定)でありながら、地震大国日本で1300年ものあいだ“立ち続けている”という世界に類を見ない建造物です。つまり現存する最も古い木造建築が高さ31.5mの塔だというのだから、これはもう本当に驚愕の事実です。

五重塔が倒れない理由-建築史上の謎-については、これまで名立たる研究者らの功績により徐々に解明されつつありますが、科学的に完全な回答には至っていないようです。ただし、その構造-各階は互いに接合されておらず、ちょうど5つの帽子を上から順に被せたような構造になっている点。中央が空洞になっており、そこに通し柱(心柱【しんばしら】)が振り子のようにぶら下がっているという点等-については詳らかにされています。

極めて特殊な構造であるが故、大地震に見舞われると、初重(1階)が右に動くと、二重(2階)は左に動き、三重はその反対に…と、まるでスネークダンスのように塔全体がくねくねと揺れ…、そして倒れない…、結果無傷…(参考書籍「五重塔はなぜ倒れないか」上田篤編・新潮選書。興味のある方はDVD版「五重塔はなぜ倒れないか」発行(株)日映企画・発売(株)井上書院もご参照ください)。

オイルダンパーも積層ゴムもない時代に木材だけで組み上げられた塔-しかも10階建てのビルを超えるような高さの塔-が、龍が昇るがごとく踊り揺れることで、巨大地震に耐える姿は圧巻という他ありません。本当に先人の発想力と知恵と匠の技術には驚かされるばかりです。

私はかつて国際政治学者のサミュエル・ハンチントン氏の文明論に触発され、「日本という国はまさしく“木の文明国家”である」という持論を披歴したことがありますが、その根拠の一つに「ピラミッドは究極の耐震建造物である一方、五重塔は究極の“免震建造物”だという対比」があります。 ただし五重塔に居住空間はなく、そもそも人が住むために造られたものではありません。つまり「住まう人を守るための免震ではない」ということです。

では、この塔はいったい何なのでしょう?その起源はインドのストューパ(釈迦の遺骨を収めた舎利塔)、要はお釈迦さまの骨を収める納骨堂にあると言われています。それが日本に渡って五重塔になったというわけです。ちなみに“五重”の意味は「地」「水」「火」「風」「空」の“五大”を表しているそうです。

五重塔が何なのかはさておき、当時の宮大工が何にヒントを得て、あるいはどのような着眼点によって、驚異的な免震技術を生み出したのか、私にはそこのところが気になって仕方ありません。設計図不要と言われる宮大工の頭の中に、どんな景色が見えていたのか?実は私はこの疑問に対して、或る確信を持っています。
 

 五重塔は人間の腰椎をモチーフにして設計されている

という視点です。まずは下図をご覧ください。

Gojuunotou2
五重塔の美しさを図る指標として“逓減率”があります。これは初層(1階)に対する最上層(5階)の横幅の減少率を指したもので、例えば最上層が初層の半分なら、逓減率は0.5ということになります。これが0.7前後の塔はすらりと背が高く見えると言われており、人間の腰椎-これも同じく5個の椎骨による五層構造-の逓減率も、五重塔とほぼ近似の値になっている(上の写真の腰椎は0.76)という点、五重塔の各層のあいだには圧縮荷重を逃す精巧な木組みが介在しており、まさしく椎間板に相当するという点、さらに塔身の空洞に独立した形で振り子のようにぶら下がる“心柱(しんばしら)”と、同じく脊椎の空洞において硬膜&クモ膜に包まれて脳脊髄液の中に浮ぶ“脊髄(せきずい)”が相似形を成している点等々…、偶然とは思えない共通点の数々。

もちろん真実を知るためにはタイムマシーンに乗って当時の宮大工に直接話を聞く以外に方法がないわけですが、私個人としては「五重塔≒腰椎」という可能性に対して、強烈なるインスピレーションを感じています。

 
お釈迦様の骨を収める塔の造形を考案せんとする時、骨そのものをモチーフにするなんて、なんて大胆かつ洒落の利いた発想だろう。もっとも考えようによっては「倒れない木造層塔」を造るために思考錯誤を繰り返す中で、人体にヒントを求めた宮大工がいたとしても何ら不思議ではないし、むしろ必然の流れだったとさえ言えるかもしれない。

彼らは塔のデザインや構造を熟考する過程で、人間が立つメカニズムに眼が向かっていったのではないか。当時の宮大工にどの程度の人体解剖の知識があったのか知る由もないが、もし脊椎を視界に捉えていならば、たとえ“脊髄”を知らなかったとしても、脊椎の空洞部分に何か重要なものが入っていると考えた可能性は高い。

そして、彼らは脊椎の空洞に何か柱状のもの(実際は脊髄)が振り子のようにぶら下がっている(あるいは通し柱として立っている)形態が、人間が立つために何らかの意味を持っていると考えたのではないか。冠状面のちょうど真ん中に柱(脊髄)があるからこそ人間は立っていられると。

人体において内臓は非対称だが、骨格は対称(シンメトリー)になっている。実際ヒト胚の発生過程において、細胞分裂のベンチマークとして脊索が中心にあることで骨格形成はシンメトリーを成していく。彼らに発生学の知識はさすがになかったであろうが、少なくとも人がバランスを維持するためには脳とそれに続く脊髄-あるいは脊椎の空洞の形状から推して柱のようなもの-が人体の中心にあることが重要だと考えたのではないか。さらにその脳脊髄に一定の重量があること、つまり錘(おもり)のような意味があるという、現代の制振技術(質量付加機構)に繋がる何かに気づいたのではないか。

そういう発想を持つことによって、初めのうちは単なる仏舎利塔というイメージしかなかったものが、徐々に人間そのもの、あるいはお釈迦様の象徴として捉える哲学が、当時の宮大工たちに培われていったのではないか…。であれば「絶対に倒れることは許されない…」。そういう信念が背景にあったからこそ、幾多の地震を乗り越えてその美しい姿を今日まで保つ“芸術作品”を残すことができたのではないか。

大地震の際にスネークダンスを踊る姿は、もはや建築の概念を超えて、世界初の巨大からくり人形と見なすことはできまいか。動力源はもちろん地震エネルギー。想像の世界でのお遊びではありますが、五重塔は世界初の、そして世界最古の木造ロボットだった…。数十年あるいは数百年に一度だけ大地の揺れに呼応して動くという…。

そして現代…、五重塔の心柱を蘇らせたものが、東京スカイツリーの心柱制震という流れに思いを馳せると、宮崎駿監督作品「もののけ姫」に登場したシシ神の姿が思わず脳裏をよぎる…。都会の夜に浮かび上がる東京スカイツリーの姿は、まさしく現代に蘇ったデイダラボッチだ…、私の中の童心がそう叫んでいる。

遥か先の未来、現代文明の終焉の後、さらに気が遠くなるほど先の未来人がオーパーツと化した東京スカイツリーを「巨神のオブジェではないか」と解釈したとしても、あながち間違いとは言えないのかもしれない…。失敬、少し余興が過ぎたようだ。

話を元に戻そう。五重塔の構造上の観点からはそれがそのまま人体の脊椎を表していると考えられ、制振の観点からは質量付加機構における錘(おもり)が心柱を兼ねる形で、現代建築におけるマスダンパー(建物の頂部に載せたおもりの作用による制振システム)を体現しており、人間においては中枢神経(脳脊髄)がこれに該当する。

おそらくは脳脊髄液を含め、中枢神経(脳脊髄)の総量が錘(おもり)としてちょうど良い重量になっており、それがシンメトリーを成す骨格の中心にあることで、高度な姿勢制御と制振の両方を同時に成し得ていると言えるのではないか


これが悠久の時を超えて私が受け取った彼らからのメッセージ(インスピレーション)です。人類の建築史にその名を刻む五重塔。文字通りこの金字塔を打ち立てた宮大工たちが現代に生きる私に「人間が立つメカニズム」を教えてくれたような、そんな気がしています。

4足歩行がやがて進化して2足歩行になったという進化論が絶対だとは思えなくなるほど-かと言って“退化論”を支持する勇気はないが-、あたかも最初から直立歩行するために人間の設計図が描かれたとしか思えないほど、そこには緻密で精巧なシステムが隠れているのです。村上和雄氏が言うところのサムシンググレートの存在を感じずにはいられません。

ボーリングの球(約5キロ)と同じ重たさの頭を頂点に乗せて不安定な人類が今あるのではなく、脳が肥大化し重たくなったことではじめて直立歩行が安定したと捉えることができるのです。少なくとも現代建築が生み出した質量付加機構は人体機能をそのように説明することを可能にしているということです。冒頭のほうで紹介した説明図を再びご覧ください。

Sky1.
倒立振子の実験が示す通り、人間の姿勢制御には頭蓋脊柱が一体となって機能する「多重センサ内臓型倒立振子モデル」が成立すると同時に、地震工学における建築技術のすべてが備わっています。
         ◇免震技術…椎間板≪積層ゴム≫
         ◇制震技術…椎間関節・仙腸関節≪オイルダンパー≫
         ◇制振技術…脳脊髄≪マスダンパー(質量付加機構)≫

Masdampa
五重塔の免制震機能を現代建築の専門用語で表すと、“受動的”を意味する“パッシブ”と、「錘(おもり)を利用した制振技術」のことを言う“マスダンパー”を組み合わせて、【パッシブ・マスダンパ―】となります。

他方、地震や風による揺れを加速度センサ等が感知して、それをコンピュータが演算処理することで、おもりの動きを制御する場合、“能動的”を意味する“アクティブ”を使い、【アクティブ・マスダンパー】と言います。

昨今、高層ビルなどでは従来のパッシブ制震では対応しきれない面-強風や長周期地震動などに対処する必要性-があり、コンピュータ制御による制震技術-アクティブ制震-が開発されています(詳しくはこちらのページ)。

つまりコンピュータ制御に拠らず、ただ機械的、受け身的に反応するものをパッシブ制震(免震)と言い、一方、センサによって揺れ具合を感知することでコンピュータ制御を行うタイプをアクティブ制震(免震)と言います。

HONDAのASIMOが滑らかな2足歩行を実現した背景には高感度センサとマイコンの開発が挙げられます。セグウェイの開発も同様です。そして今、高層ビルの制震技術においてもセンサとコンピュータによる制御が生み出されているというわけです。

そうした制御系で使われるセンサの多くは加速度センサと角速度センサであり、人間の場合、その任を負っているのが関節受容器であり、コンピュータに相当するものが脳だと言えます(拙論「関節受容器のTypeⅠは3軸加速度センサであり、TypeⅡは3軸角速度センサ」より)。

人体の動きは脳(コンピュータ)からの指令で動き、制御されていますので、人間の運動システムは基本的に“アクティブ制御系”であり、私が唱えるところの骨格ダンパーもすべてアクティブ制震だと言いたいところですが、ひとつだけ例外があります。それが“椎間板”です。椎間板は神経支配を受けていないため、パッシブ免震装置ということになります

  Tuikandampa   Shouniseki4_2

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脊椎の骨格ダンパーは脳の支配下にあるアクティブ制震(椎間関節)と、支配を受けないパッシブ免震(椎間板)の両者によって成立しています。

もちろん筋肉の働きが重要であることは言うまでもありませんが、筋受容器(筋肉センサ)はフィードバック制御であって、制振システムや姿勢制御の両者において、反応スピードの観点から常に二次的、補佐的な意味合いにとどまるという理由から、あえて今回の論点に加えていないことをここで言い添えておきたいと思います。


高層ビルにおいて、鉄骨やコンクリートの強度(=骨や筋肉の強さ)が重要なことは言うまでもないが、免制震の観点からはその主役はあくまでもオイルダンパーや積層ゴム(=椎間関節や椎間板)であるという今回の私の趣旨からして、あえてここでは論点に含めない


人間の脊椎機能は上図における前方支柱と後方支柱の関係性で捉える視点、すなわち椎間板と椎間関節の関係(=パッシブ免震とアクティブ制震の関係)として考えることが極めて重要であり、そうした視点によってはじめて椎間板の真の姿が見えてくるのです。

以上の前提知識とくに「椎間関節によるアクティブ制震」を知っていただくことで漸く本論に入ることができます。前置きが随分と長くなりましたが、いよいよ核心に迫ってまいりたいと思います。後編において、髄核に秘められた遺伝子のサイン、10年という時間が真に意味するもの、そして椎間板の“真の宿命“”を明らかにしたいと思います。


 
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椎間板のパラダイムシフト(後編)

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