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痛みの成因7)ストレス説を斬る!-過去を封印して生きるということ-

2014/03/03

痛みの成因7)ストレス説の皮相性を斬る!-過去を封印して生きるということ-

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多くのアスリートが取り入れているメンタルトレーニング。しかしこうしたアプローチを一切必要としない選手もいます。私は内観力を持たない強さを“原石の力”、それに対して、内観力を極めた強さを“磨かれし石の力”と呼んでいます。

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ロンドン五輪の体操金メダリスト“内村航平選手”。彼も“原石の力”すなわち内観力を持たない強さの典型でした(過去形にした理由は、現在は“持っている”可能性があるからです…)。

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ロンドンでの団体戦、彼はよもやの不調に見舞われ、周囲から「五輪のプレッシャーか」と騒がれました。しかし本人は「プレッシャーなど感じたことはない」と、精神論を一蹴し、その代わり「魔物」という言葉を使っていました。彼が言う魔物とは、オリンピックという舞台すなわち自分の外にあるという意味で使っていたことは、コメントの前後の脈絡から明らかです。つまり問題は自分の中にあるのではなく、外にあるという意識です。内観哲学を持たない者は、何かしらの問題に直面すると、外の世界に原因を見つけようとする無意識の心性が働きます。

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もっとも彼の場合、他の追随を許さない世界一と言われる練習量の多さを強大なる信念に昇華させ、「心理的な要因など入り込む余地がない完全なるアスリート」というセルフイメージを作り上げていました。そして、個人決勝では見事に復調し、金メダルを手にしたことは記憶に新しいところです。

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スポーツ現場では「メンタルトレーニング」の重要性が認識され、“心技体”のバランスを重視する選手は少なくありません。しかし、“心”を意識する必要がまったくないほどに、“技体”が突き抜けてしまうと、内村選手のように「プレッシャーとは無縁」の世界観を持つことができるようです。まさしく内観力を持たない強さ、原石の力の典型例と言えます。

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他方、メンタルトレーニングを実践し、自らの内面と向き合うアスリートは内観力を持つ強さ、磨かれし石の力がある、あるいはそれを身につける過程にあると見なすことができるわけです。

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ロンドンで内村選手が調子を崩した原因、それは単一の因子とは限りませんが、後になって本人も認めているとおり「オリンピックにかける思いが強すぎた」ことが挙げられます。ですから決勝の舞台で見事に復調したとき、メンタルアプローチを持たない彼の中で、どんなプロセス、どんな変化がおこっていたのかは、とても興味深い事象です。

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ただ、これは私の勝手な推測ですが、彼は最後まで“心”を意識することなく、“自分”を貫いたのではないか…。あのような短期決戦の舞台で、自身の核になっているものを変えることはあまりにリスクが高い。自らの心と向き合うのではなく、別次元の何らかの変化によって、二次的かつ偶発的に“強すぎる思いが適正値に下がった”結果だったのではないでしょうか。つまり原石の力そのままに金メダルを手にしたのだろうというのが私の推考です。

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ところで、人の痛みを何十年も見続けている私は、ついその性癖から、あることが脳裏をよぎります。もし内村選手に発生した問題が、パフォーマンスのレベルではなく、“痛み”だったとしたら、それでも彼は自己完結することができただろうか? 大会後には認めたものの、少なくとも競技中の彼は不調(スランプ)と心の因果関係を受け入れることはなかったわけですから、痛みと心の因果関係も、おそらく認めることはなかっであろうと思われます。

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内村選手に限らず、内観力を持たない人が、仮に激しいストレスやプレッシャーから痛みを引きおこした場合、心と痛みの因果関係を認めることはほとんどありません。臨床の場面において、同様の患者さんに遭遇した場合、そこには2種類のタイプが存在します。ひとつは“原石タイプ”で、要は“ロンドンでの内村選手”が患者さんとして来た場合です。もうひとつは“磨き挫折タイプ”で、こちらは内観哲学を持とうとしたけれども、種々の理由から断念した患者さんです。臨床的によりむつかしいのは、後者の“磨き挫折タイプ”です。

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前者(原石タイプ)はいずれ内観力を手に入れる可能性があるのに対し、後者の“磨き挫折タイプ”はその可能性を自ら頑なに閉ざしていると言うことができます。内観哲学を持とうとして、失敗しているため、そのトラウマ、反動から、心の扉に厳重な鍵がかけられているのです。痛みの臨床において、こういう人たちを助けることは非常にむつかしい…。なぜむつかしいのか、その背景について、“ストレス”や“心”といった言葉がNGである理由と併せてお話しさせていただきます。

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ただし、文脈の便宜上NGワードを使ったほうが伝えやすいので、それらの言葉を用いた臨床風景(具体例)でご説明したいと思います。個人情報を明かすことはできませんので、私が実際に経験した複数の症例を繋ぎ合せたフィクションとしてお届けします(現実の症例を色濃く反映した内容です)。

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30歳代の女性の方が非常に強い腰痛を訴えて来院されました。職場で腰痛を感じるようになり、以来痛みが続いているとのこと。家族構成は本人と子供1人。つまり母子家庭であり、本人の仕事は派遣です。腰痛が出る1ヶ月前、現在の会社に赴任し、商品の発注業務に就きました。ところが、扱う商品の数が非常に多く、なかなか覚えることができないため、仕事上のミスが重なり、上司から注意されることが多いと言うのです。派遣はミスが多いと首を切られてしまうので、ミスしちゃいけない、ミスしちゃいけないと思うと、かえってミスしてしまうとのこと。

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家族歴や既往歴も含め、理学所見に危険なサインは一切見当たらず、神経症状もありません。こちらでの治療を数回続けても、痛みがまったく変わらないため、「派遣という立場で商品を覚えられずにミスを繰り返し、上司から注意される日々というのは相当なストレスですよね。実はそういう背景があると痛みは消えにくいんです」と、痛みとストレスの関係を説明したところ、本人は「え?こういうのってストレスなんですか?私にはストレスだなんて全然思えませんけど…」というリアクション。私はその後も粘り強く説明を試みたのですが、彼女がストレスの存在を認めることはありませんでした。

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皆さんはどう思われますか?あなたが痛みの臨床家で多少なりともホリスティックな視点を持っている方なら、「これだけのストレスを抱えていては痛みが消えないのも道理」と感じられるでしょう。ところが、患者さんの視点からは、「ストレスと言われればそうかもしれないけど、何でもかんでもストレスって言われちゃうとね…」と感じる人、「彼女と同感。そんなものはたいした問題じゃないでしょ」という人、あるいは「たしかにストレスだろうけど、そもそもストレスが痛みの原因っていうのが分かんないよね」という人など、さまざまな意見があると思います。

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まず抑えるべきは、ストレスに対する感受性、ストレスという言葉の定義、意味合いが、個人によってまったく違うという点です。コンビニのバイトで言えば、ある人は「レジをやっている時、お客さんが3人以上並ぶと、客の視線がものすごいストレス」と感じ、またあるひとは「レジに何人並ぼうが、そんな状況はまったくストレスに感じないけど、“温めますか”って聞くのがストレス。いちいち聞かなくても、それを希望する客が言えばすむ話なのに…」と。同じ仕事をしていても、人によってストレスに感じる対象が違うということです。

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ですから、患者さんのストレスの背景を洞察する際は、「医療者自身の認識、尺度、感受性を基準にして決めてはいけない」ということが言えます。先ほどの女性も、もしかしたら本当に「ストレスに感じていない」可能性があるわけです。しかし彼女の場合、それには該当しません。間違いなくストレスになっています。なぜそう断言できるのか?実は彼女は初診時の問診では、その事実を自ら話して「ストレス」と認めていたのです。ところが、何回かの通院の後、それが痛みの原因になり得ると説明されたとたん、“否定”し始めたのです。

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つまり、こういうことです。世の中には何か問題がおきたとき、それが自分の内面に結びつくストーリーを忌避する人々がいるということです。ですから、彼女も、痛みの原因として説明される“ストレス”は否定するけれども、別の日常-ランチの際の友達同士の会話-の場面であれば、「信じられないくらい商品の数が多いのよ。こういうのってストレスよねえ」と笑って話せる可能性があるということです。

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こうした方々の内面では何がおきているのでしょう?何がそうさせているのでしょうか?もちろんケースバイケースの要因があるわけですが、“拒絶”の色合いがとくに強い人では、“心の傷”が隠れている場合があります。その人の過去において、他人に触れられたくない深い傷(辛い記憶)を背負っており、その傷口がふさがっていないため、絆創膏で覆い隠し、心の引き出しの一番深いところに仕舞い込んで鍵をかけているのです。

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自分の内面と向き合うことを無意識の領域で忌避する人々は、“過去”と対峙することに耐えられない精神状態になっているケースがあります。こうした人々にとって、“心”の話は、「もういい加減にして。そっちの世界は見たくない。やめてちょうだい」という無意識の感情が湧きおこり、理屈ではなく感情として拒絶してしまうのです。

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先の派遣女性にも、実は悲しい過去-辛い記憶-がありました。不妊治療を続けていた姉が精神的に不安定になっているその最中、妹である自分が妊娠しました。その事実を知った姉が直後に自殺。心ない親戚から「きっとあなたの赤ちゃんを見たくなかったのよ」と言われ、心に深い傷を負いました。以来自分を責めるようになり、夫婦仲もこじれてしまい、その2年後、夫の不倫をきっかけに離婚。子供をひとりで育ててきたのです。

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その間、婦人科疾患、パニック障害、自律神経失調症を次々に発症し、心療内科でのカウンセリングも受けてきましたが、心の傷が癒えることはなく、最終的に過去を封印することで、かろうじて自分を維持させてきたのです自らの心と向き合うことを完全に放棄内観力を封殺-し、心の扉を閉ざして生きていく人生を選択した…、というか、生きていくためにはそうせざるを得なかったわけです

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そんな折、派遣先の会社で腰痛を患い、知人に薦められて行った受診先で、心に原因があるかのような説明を受けました。彼女としては「そんな話はもうたくさん。二度と聞きたくない。これ以上私を苦しめないで」となり、心の扉をノックされかねないストーリー (ストレスと痛みの関係) を拒絶したというわけです。

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このように内観哲学の扉を閉ざした人、すなわち“磨き挫折タイプ”に対しては、ストレスや心という次元のアプローチでは到底むつかしいということがお分かりいただけると思います。

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一般の臨床(通常の整形外科や接骨院等)においては、このようなケースは稀少例と言えますが、それに近い心理特性を抱えている人はけっこういらっしゃいます。医療者が気づいていない-気づこうとしない?-だけです。もっとも患者さんはそれを「表出したくない」わけですから、「気づけ」というほうが無茶な話かもしれません。あくまでも私が“例外”…。ふつうは気づけないと思います。自賛しているわけではなく、むしろ自省のニュアンスで言っています。

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こういう世界に気づけてしまうというのは、私自身とても辛いことなのです。人の内面に潜むネガティブな感情を察知する能力が強すぎると、自分自身も深く傷つくことになります。映画「グリーンマイル」のコーフィの気持ちが痛いほど分かります。

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(多くの臨床家にとって、「グリーンマイル」を鑑賞しておくことはとても意義深いことだと思います。映画のラストで「人知れず繰り返される悲劇」に絶望するコーフィの姿を反面教師にして、影の世界に引きずり込まれないよう自らをコントロールしなければなりません。だからこそ光を見つめる内観力が大事なのです。患者さんにとっても、治療家にとっても…)

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