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痛みの成因9)ストレス説の皮相性を斬る!-脊柱管狭窄症と“気づき”の道程-

2013/08/31

痛みの成因9)ストレス説の皮相性を斬る!-脊柱管狭窄症と“気づき”の道程-

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MRI写真を見せられて「ここが狭くなっています。だから…」という説明には極めて強大な説得力があり、形態学上の診断が痛みの原因診断を兼ねている現状にあっては「画像診断≠確定診断」というロジックを理解することができる患者さんはほとんどいません。
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しかし、これまでいろいろな場面で喝破してきたとおり、痛みは多くの場合“脳の問題”です。昨今、健康雑誌を賑わせている「脊柱管狭窄症はこんな運動で治る!椎間板ヘルニアと言われたら、これで治る!」といった情報は、たまたまその患者さんの脳と相性のいい運動を行うことで、結果的に脳のプログラムが書き換えられた結果に過ぎません。
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ですから何も運動に限った話ではなく、音楽であれ、アロマであれ、好きな趣味であれ、とにかく脳のプログラムを書き換え得る手段であれば、なんだっていいのです。要は患者さん自身が納得しやすく、かつ自分の脳と相性のいいものが見つかれば、たいていの痛みは消えるということです。
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そうした脳と痛みの関係を考える上で、たいへん興味深い症例を紹介します。60代後半の男性Aさんのケースです。大手商社の営業マン時代、仕事上のミスで左遷された経験があり、そのあたりから腰痛を感じるようになりました。

定年退職後のある日、庭の手入れをしている最中、突然の激痛に見舞われて以降、歩行がしずらい状態に

その後一進一退を繰り返していたようですが、MRI検査にて脊柱管狭窄症と診断されたのを機に、都内の大学病院を含め4~5軒の病院を受診してきました。そのいずれにおいても見解は同じで「手術適応」とのこと。「できれば手術は避けたい…」と思い悩んでいた矢先、偶然再会した会社の後輩に薦められて当院を受診。
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初診時の所見は右骨盤から右足にかけての灼熱痛があり、歩行に関しては痛みとしびれのために常に跛行を呈して-びっこをひいて-おり、50メートルおきに休憩をはさむといった状態(典型的な間欠性跛行)。大腿周計を測定、比較すると、患側は1.5センチ細くなっており、一見して委縮が分かるほど痩せ細っています。

触診や問診等の後、画像診断の矛盾について概略を伝え、脊柱管狭窄は正常人のMRI画像にも映り込む-60歳以上の正常人の内、約20%に脊柱管狭窄が見つかったというアメリカでの研究報告がある-ため、椎間板ヘルニアと同様、痛みとの因果関係は論理的に不整合、不透明である。ところが、画像診断偏重の現代医学はあたかも100%の診断精度(確度)であるかのように患者さんたちに説明している。構造的な変化を病名とする整形外科的診断と、痛みの原因診断は必ずしも合致しないにも拘わらず…。さらに同じ脊柱管狭窄でも、直腸膀胱傷害タイプは手術で回復するが、痛みしびれタイプにおける手術成績は決して良くない旨を伝え、以下の説明を。

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Aさんの痛みやしびれ、筋肉の衰え(委縮)はCRPS(RSD)という病態であり、脳における神経回路の不調和が引きおこす疾患です。先ほども申し上げたとおり、MRI上の脊柱管狭窄は無症状の人にも見つかることが分かっています。アメリカの別の実験ではMRI上の狭窄レベルと患者さんの訴えに相関性がない-例えば、狭窄が高度なのに症状が軽い。あるいは狭窄が僅かであるにも拘らず症状が強いというように、狭窄の程度と症状の重さがまったく一致しない-ことが証明されています。

こうした事実が意味するものは、MRIの結果はあくまでも参考所見すなわち補助診断に過ぎず、確定診断の根拠にはなり得ないということです。脊椎研究の世界的な権威は「我々は画像上の所見と痛みが相関しないことを知っている。我々が治療すべきは患者さんであって、MRI写真ではない」という名言を残しています。

そもそもの話、百歩譲って本当に狭窄による神経の変性があったとしても、神経の圧迫は伝導障害すなわち麻痺になるのであって、絶対に痛みにはなりません(これについては痛み・しびれと神経の本当の関係で詳しく解説しています)。だからこそ同じ脊柱管狭窄症でも、症状が麻痺として現れる直腸膀胱障害タイプは手術で治るのに対し、症状が麻痺ではない痛みしびれ(錯感覚)タイプは手術成績が良くないのです

CRPS(RSD)とは痛み中枢の活性化と交感神経の機能異常によって、持続性の痛み、感覚障害(錯感覚)、組織の委縮などを来たしてくる疾患です。CRPS(RSD)は完全型と不全型に分かれるというのが私の考えですが、Aさんは不全型の可能性が高いです。不全型であれば当方の治療で良くなることが多いですと解説。

すると「先生の言っていることはむつかしくてよく分からないけれども、とにかく少しの間続けてみます」というリアクション。

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その後、当院の施術( BFI ) を3カ月ほど続けた結果、歩行時の灼熱痛と跛行は改善し、長時間胡坐をかいているときの「ジワーッと熱くなる感じ」のみが不変(⇒自宅で胡坐をかくことが多いと言うので、その習慣を改めるよう助言)。また「歩行距離が数百メートルまで延び、休憩をはさめば10分弱くらい歩ける」まで回復。

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このように順調な経過に安堵していた矢先、突然「なんか調子悪くって…、また元に戻ってしまったというか、こちらに来たときより悪くなってしまったような…」と、暗い表情で来院されました。このときの会話を再現します。尚、ストレスという言葉が無力であることを読者にお伝えするため、あえて“ストレス”を使った臨床風景をご覧いただきます。

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「初診時にも説明しましたが、何らかのストレスを受けると、脳内の痛み中枢が活性化してしまうんです。そういう視点で振り返ってみたとき、何か変わったことはありませんでしたか?」

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「…、いいえ、何もありません」

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「何もないはずがないんですけどねえ…。ストレスには慢性と急性の2種類があります。慢性というのは、長期間にわたって受け続けているもので、たとえば隣人問題とか、家族の問題とか、そういうものです。急性のほうは、ちょっとした揉め事や事故やけがなどの一時的なトラブルで、人によっては、銀行で長時間待たされたとか、買い物先で態度の悪い店員に立腹したとか、そういう些細なことでも痛み中枢が高まる人もいます…」

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「いやあ、そういうのは私、ほんっとに何もないんですよ。そりゃあね、かつて会社勤めをしていたとき…、確かにあの頃のストレスはすごかったと思いますよ…。でも、それに比べたら、今なんて…。ただ、変わったことといえば、先日実家に行ったくらいですかね」

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「たしか福島県と仰っていましたよね。どうやって帰省したんですか」

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「車です」

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「運転はおひとりで?」

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「ええ」

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「奥さまは?」

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「妻は行きません…。私の実家へは独りで…」

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このあとAさんが告白した内容は以下の通りです。

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かつて自分は典型的な会社人間で、家庭に目を向けることは一切なかった。子供が4人いるが、しつけも全部妻任せだった。たった独りでの育児は苛烈を極めるものだったらしいが、正月も盆も自分は仕事だった。家族サービスをした記憶はほとんどない。子供の一人が病弱で入退院を繰り返していたが、私は何もしてやれなかった。そんな私に妻はずっと耐えてきた。妻は何度か離婚を切り出してきたが、その都度私は問題を棚上げにしてやり過ごしてきた。いつの頃からか妻は趣味の世界に没頭し、日中はほとんど家にいることがなくなった。

しかし退職後に、そういうこと(自分のしてきたこと)にはじめて気がついた。なので、私の老後は妻への贖罪のため、罪滅ぼしのための時間だと思っている。私の実家には母が独りで暮らしているが、その母と妻のあいだで過去にいろいろあって、あるときから妻は実家に寄りつかなくなった。だから自分が帰省するときはいつも独りで行っている

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Aさんは退職後に腰痛が悪化したわけですが、その時何があったのかは推して知るべしでしょう。それまでの自分の来し方、妻の苦悩と悲哀、既に家庭を築いている子供たちが自宅に寄りつかない現状、その全ての意味を覚知した直後から激痛が始まっていたのです。

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私はAさんの独白を聞いた瞬間から、ストレスという言葉がいかにも薄っぺらく、皮相的な響きに感じられ、この言葉を口にすることができなくなりました。とりあえず、その場では「そういう心の内実が痛みを強くさせる」とあらためて痛みのソフト論-痛みの原因はハード(構造的な問題)ではなく、あくまでもソフト(脳内のシステム上の問題)にあるという考え方-を披歴してはみたものの、もはやその口上に力はなく…。当の本人としても、初診時同様ほとんど意味不明の様子なので、ソフトの話はそのままフェードアウト。

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それにしても、今回の急激な悪化の理由は最後まで謎のまま…。実家との往復(ロングドライブ)が原因では?という唯一の可能性に対しても、「これまで幾度となく帰省しているが、車の運転は何時間しても疲れないし、それで痛みが出たということも一切ない」と一蹴され…。

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さて、その後も不安定な状態が続くAさんに対し、「おかしいですね、絶対何かあるはずなんですけど…。本当に何もないんですか」「ええ、なんにもないです」の一点張り。来るたびに不穏な空気を漂わせ、しまいにはこちらの治療に原因があるんじゃないかと言わんばかりの態度に。

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ところが、突然の悪化から1ヶ月ちょっとが経過したころ、「先生、すっかり良くなりましたよ。いやあ、いったいあれはなんだったんでしょうね…。昨日は10分くらい歩いても痛みが出ませんでした」と、見違えるほどの明るい笑顔で来院されたのです。以下がその時の会話です。

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「福島の母も奇跡的に恢復したし、嬉しいことって続くもんですね」

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「はい?恢復?何のことですか」

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「先々月から母が肺炎をこじらせていて、なかなか治らなくて…。それで向こうに何度も行っていたのですが…。しまいには医者から覚悟したほうがいいみたいなことまで言われちゃいましてね…。母も来年には97歳ですから、今回ばかりは厳しいのかと。でも医者も驚く回復ぶりで、完治したというんですから、私もびっくりですよ」

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さすがの私もこのときばかりは唖然呆然。まさか母親がそういう状態にあったとは…。「やっぱりそういうことがあったんじゃないですか。あれほど何か変わったことはないかって聞いていたのに…」と喉元まで出かかった台詞をぐっと押し殺し、「それはそれは…、本当に良かったですね」と応じて、一件落着。

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何はともあれ、これでようやく謎が解けたわけです。

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リアルタイムでは自らの心の変化に気づくことができず、ストレス事案が収束し、ある程度の時間が経過したあと、冷静になって振り返った時に初めて「ああ、確かにあの時の自分はそういう状況だった」と内観できるケースというものは、実は意外に多いものです。ですから、Aさんも一定の冷却期間の後に気づくことになるだろうと、私は高をくくっていました。ところが、それはまったくの思い違いであることを2カ月後に思い知らされることになります。

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「なんか調子悪くて…」と、また暗い表情になって来院されたのです。その理由は長くなるのでここでは述べませんが、このときも明確な“有事”が勃発していました。しかし、本人は相変わらず「変わったことは何もない」を連発。このときばかりは「さすがに伝えるべき」と意を決め、「2か月前、あなたは自分の母親が危篤に近い状態にあっても、それが自分の心に影響を与え得る事変だと気づけなかったわけで…、今回も…」という話をしました。

すると、きょとんとした表情で、「この人、何を言っているの?」といったリアクション。まったく会話が噛み合わないのです。

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Aさんは、退職後とはいえ、少なくとも自分の生き方が「妻の心に打撃を与え続けてきたこと」を自覚し、妻への贖罪を決意しているわけですから、「内観哲学がない」とは言い切れません。内観カメラは持っているのですが、そのオートフォーカス機能が働いていないだけなのです。ご承知の通り、現代のデジカメのほとんどにこの機能があります。いちいちピントを合わさなくとも、被写体を自動的に認識してピントが合うようになっています。Aさんの内観カメラはこの機能が故障しているため、自動的にピントを合わすことができないのです。

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とくに仕事人間だったAさんにとって、会社での壮絶体験-自身のミスから億単位の損失を出して左遷された過去-がトラウマになっており、そのときのストレスを基準にして“ストレス”という用語を認識してしまっているため、本人の中でそれを下回るレベルのストレス事案に対してはまったくピントが合わないのだろうと、私は感じました。

ただし、脳の島皮質が活動低下に陥ると、自分の感情に気づいたり、自分の感情を説明したりすることがむつかしくなることが、脳神経学の学者によって突き止められています。Aさんにおいても、島皮質の問題が潜在している可能性は否定できません…。

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とは言え、夫婦関係に対してはピントを合わすことができたのですから、そのあたりにフォーカスしつつ、ストレス以外の言葉を使えば、もしかしたら問題の核心に迫れるかもしれないと、私は考えました。

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「ご自分の過去を振り返って、奥さまに贖罪の気持ちを持たれていることは十分承知していますが、母親が危篤に近い状況にあっても尚、奥さまが足を運ばれないことに対しては、実際、本当のところ、Aさんの気持ちはどうだったんですか」

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「気持ちって言われても…、ねえ…、どうだっていいじゃないですか。そんなこと」

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「もし私がAさんと同じ状況に置かれたら…、自分に負い目があったとしても、嫁姑問題があったとしても、危篤に近い状況であれば…。本音としては妻にもいっしょに来て欲しいと…」

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「私は全然そんなこと…。妻に対しては、私のほうから「来なくていいから」と言ったんですから」

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「そのとき、奥さまはどんな感じでした?」

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「どんな感じって、ただ黙ってましたよ」

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「そもそも、の話なんですが、お母様と奥さまが仲直りして欲しいとは?」

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「母はもう歳ですし、認知症も進んでいて、近くに住む弟の顔すらも分からなくなることがあるくらいですから、今さら…」

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「奥さまはどう思っていらっしゃるんでしょう?嫁姑問題ですから、相当な何かがあったんでしょうけど…」

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「妻と母のあいだでおきたことは、妻には何の落ち度もありません。妻が被害者ですから、妻に歩み寄れとは、私には言えません」

「全面的に自分の母親が悪いと?そのことは奥さまに伝えたんですか」

「いいえ、渦中のときは、私もだいぶ感情的になってしまって、いくら母に問題があったとしても、目の前で妻からいろいろ言われ、ついカッとなって、正反対のことを言ってしまい…」

「まあ、その気持ちは分からなくもないですが…。でも、あとで本当の気持ちを奥さまに伝えてあるんですか?」

「いいえ。その一件以来、私ら夫婦の間で、母の話はタブーみたいになってしまって」

「えっ、言ってないんですか。それじゃ今も、奥さまはAさんの本心…、悪いのは母親のほうだと認めていることを知らないんですか」

「きちんと言ったことはない…、かな」

「そう、なんですね…。だったら、何かの機会にさりげなく…、奥さまに伝えるっていうのもアリなんじゃないすか?っていうか、それは言ってあげたほうがいいような気がしますけど…」

その直後、Aさんの表情に微妙な変化が…。2つの絵の間違い探しをするクイズで、最後まで見つけられなかった箇所(答え)が分かったとき、なんで気づかったのだろうというちょっと悔しい思いと、ああ、そこだったのか、なるほどという痛快な思いが入り混じったような…、そんな複雑な顔つきになっていました(あくまでも私の主観ですが…)。

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かつてAさんは家庭を一切顧みなかった自分に気づかされ(どういう経緯で気づくことになったのかは話してくれませんでしたが…)、その罪滅ぼしの意識を強く持つようになってから痛みが悪化したわけですが、さらにそうした贖罪の日々において、悔悟の思いを刺激されるシーンが日常生活のあらゆる場面に潜んでいました。妻との何気ない会話。久しぶりに電話をしてきた子供や孫とのやり取り。母親思いの性格から2カ月おきくらいに帰省する慣習。それに対する妻の視線。生活のほとんどを趣味に当てている妻への複雑な思いなど。

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そうしたなか母親の入院をきっかけに痛みの増悪が…。すると母の病状を憂う自らの心痛、心労を内観することはできないAさん-頻繁に帰省する自分と妻のあいだにある重たい空気、すれ違いに対する感情のねじれが痛み記憶の再生に繋がったという見方もあります-でしたが、嫁姑問題に絡むもうひとつの“問題”すなわち過去における自身の言動、振る舞いが、妻の心に小さな棘となって刺さっている可能性には、幸い気づくことができたのです(おそらく…)。

こうした“気づき”はAさんにとって、小さな一歩かもしれませんが、その後の夫婦関係を考えるうえでは、大きな一歩となりました

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実はこのあと、Aさんはそれまであり得なかった、夫婦水入らずの温泉旅行に行くようになったのです。あれほど苦しんでいた痛みやしびれもすっかり影をひそめ、「次は草津か、那須か、どっちにしようか…。妻のほうは那須って言ってますけどね…」と、嬉しそうな表情を見せてくれるようになりました。旅先では、まだ長時間の歩行に不安がある様子ですが、それでも以前に比べれば見違えるほど。

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あの会話の後に、Aさんが実際どのような行動に出たのかは、私は知りません。おそらく何かしらの形で伝えたのだろうと拝察していますが…。本人に確かめれば早いのでしょうけれど、患者さんとの距離感というものを考えると、いったんあの話題から離れたほうがいい-続けざまの相手側への“領空侵犯”は避けたい-わけで…。

とくにCRPS(RSD)を発症していたAさんのケースでは、治療期間が数カ月、場合によっては年単位に及ぶこともあります(CRPSの詳細はこちら )。そうした長い“お付き合い”のなかでは、あのように深入りする会話-通常の世間話を装いつつ、相手に“それ”と悟られないように行うカウンセリング-は、頻度や内容が度を超すと患者さんに不快な思いをさせてしまいます。とくに痛みのソフト論を受容しない方に対しては慎重な対応が…。

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その後のAさんは比較的安定した状態を保っていましたが、本人の希望-若かった頃の趣味である登山に挑戦したい-が叶う状況には至っておらず、いつになったら夢が叶うのかといった苛立ちを時折見せるようになりました。

そんなある日、Aさんとの突然の別れが訪れました。いつもより神妙な顔つきで、「最近はわりと安定しているし…、ここらへんでしばらく様子を見ようかと…。(省略…)。それにしても不思議だよね、先生の手は…。私の背骨(脊柱管)…、ちょっぴり広がったかな…」でした。結局こちらの話-画像診断の矛盾や痛みのソフト論-に対しては、終始見事なまでに“完全スルー”を貫いたAさん…。

私としては、さらなる“気づき”への扉をノックすべきかどうかを斟酌している最中の出来事でした。Aさんの現役時代、自身のキャリアに大きな爪痕を残した巨額損失事件。このときの体験がトラウマとなって、脳のニューロン活動に影響を与え続けている可能性…。これにアプローチすることで、本人の記憶の浄化-もう一段階進んだ脳の脱感作-に迫れるかもしれない。しかし一歩間違うと、Aさんの許容を超える“領空侵犯”になりかねない…、と逡巡していた矢先の“終了宣言”だったのです。私としても自身の決断の遅さに悔いが残る結末となりました。

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もちろん、私と出遭ったすべての患者さんに何かしらの“気づき”がもたらされるとは限りませんし、むしろ“何も気づくことなく”通院を中止される方のほうがはるかに多いわけで…。ただし、感情プログラムの深刻な問題さえなければ、たいていの痛みは施術(BFI)のみで改善しますので、最低限の責任は果たしたと言えなくもないのですが…。

一般に、長期の時間軸における内観作業はむつかしいため、慢性長期のストレスというものは認識しづらいと言うことができます。さらにAさんのようにその内実が極めて奥深いケースでは、ストレスという言葉の皮相性を感じずにはいられません…。

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もっとも「Aさんのようなケースは稀少例にすぎないでしょ」というのが大方の見方だと思います。しかしながら、私の経験値は違います。私自身はしばしばAさんと同様のケースに遭遇しています。日常的と言っても過言ではありません。つまりAさんのようなケースは決して稀なケースとは言えないのです。ただし、患者さんにとって、“自らの内実を吐露すること” と “気づくこと”は決してイコールではありません。Aさんがまさしくその典型であったように。

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ある健康番組のなかで、原因不明とされた痛みの正体を暴く名医が紹介されていました。慢性痛に苦しむある患者さんの例。消去法という概念を全面に掲げ、あらゆる疾患の可能性を潰していくといった作業(より多角的な検査)を進め、懸念されていた諸々の疾患(リウマチ、線維筋痛症など)を次々に否定していき、最後に残された選択肢-その場面では「アロディニア症」という病名-を告げ、「あなたはストレスに弱い体質なので、ストレスを溜めこまないように」というアドバイスをして終幕。

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当の患者さんは、「自分の病名が分かってホッとしました」というコメントを残していましたが…。たしかにそういう流れによる安心感の提供は大事なことだと思います。しかし、「ストレスを溜めこまないように」という幕引きは、いかにも皮相的ですし、そもそも、私に言わせれば、アロディニア症とはまさしく“痛み記憶の再生”以外の何物でもありません!

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たしかにその名医は自らの任務を果たしたと言えるでしょうけれども、患者さんの実情に気づくことは…。

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こうして眺めてみると、実は“気づき”というものは、医療者と患者さんの双方にとって、非常に大きな意味を持っており、人生を切り拓く力になるというのが私の識見です。

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痛みの原因が分からず、不安に怯える患者さんにとって、名医による「検査の限りを尽くした消去法」という手段が、非常に重要なプロセスであることは間違いありません…。ただ、ここで注意しなければいけないのは、妙に物分かりがいいというか、先読みしがちな患者さんの存在です。ストレスに対する感受性と認識力が強いからなのか、「…そうですか。先生の仰る通りストレスが原因なら、私の、この痛みは一生消えないっていうことですね」と極端な姿勢を露わにする方がいらっしゃるのです。

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本人の中でストレッサーがはっきりと覚知され、それが一生付き纏うものであって、どうすることもできないと判断してしまっているからなのか、「それならこの痛みは一生消えないんだわ」と悲観してしまうというわけです。こちらとしても慌てて、「いえいえ、そんな風に即断されるのは早計ですよ。必ず良策が見つかるはずですから…」とフォローしたところで、あとの祭り…のことが多く。

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ですから、心やストレスという言葉には、患者さんを追い詰める危険性が包含されており、何かと使い勝手がいい半面、影の部分もあるということです。

さらにストレスの存在を認識することができない症例-島皮質の活動低下-は、相当数に上る可能性があり、そうした見地からもストレス説は“真の救い”にはなり得ません!
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前々回の記事で取り上げた内村航平選手のケースも、プレッシャーとかストレスといった言葉で説明するよりも、本人が語ったように「オリンピックにかける思いの強さ」のほうがしっくりきます。派遣女性の症例も、「ミスしてはいけないという思いの強さ」でした。そしてAさんのケースも発症のきっかけは「妻に対する贖罪の思いの強さ」だったわけです。

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こうした人の思いの強さというものは、それがいい方向に働けば、当然素晴しい成果に直結するわけですが、そうでない方向に働いた場合は、感情のねじれを強くさせ、その結果脳のニューロン活動の不調和を引きおこし、やがて痛み記憶の再生につながる、というのが私の見方です。

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