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痛み記憶の再生理論-セル・アセンブリのフェーズ・シーケンス-

2012/12/08

痛み記憶の再生理論-セル・アセンブリのフェーズ・シーケンス-

≪トップページ(目次)≫

【痛みのメカニズムに迫る新たな解釈-過去の体験・記憶に基づく脳内補完痛みの記憶回路(機能的ニューロン集団/セル・アセンブリ)の再生理論

≪筆者が唱える痛みの新分類≫
ソフトペイン : 脳の情報処理に起因する痛み(痛み記憶を形成する神経回路の過活動)
ハードペイン : 組織の障害を知らせる痛み(外傷や炎症等による痛み)
ハイブリッドペイン : 上記両者の混成痛

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≪はじめに≫

CRPS(RSD)や線維筋痛症に代表される難治性疼痛を含め、多くの慢性痛と一部の急性痛はソフトペインであるというのが筆者の見方です。ソフトペインという言葉の響きとは裏腹に、脳が本気で痛み回路のスイッチを入れると、本当に信じ難いほどの激痛を生み出します。本仮説においてはそうしたソフトペインの生成メカニズムに迫りたいと思います。

≪本論≫
私たちの脳内では膨大な数の神経細胞(ニューロン)が、シナプスを介して複雑な回路を作っています。このとき記憶や体験など同じ神経回路が頻繁に使われると、特定のニューロン結合の連鎖が強化され、特定の情報を表現するための動的な神経回路が形成されます。

こうした機能的ニューロン集団を“セル・アセンブリと言います。カナダの心理学者ヘッブによって提唱され、その後の脳研究に多大な影響を及ぼした概念です。
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Seru6
※セル・アセンブリの動画映像(イメージ)はこちらのサイトで見ることができます。


痛みという感覚は侵害受容ニューロンによる電気信号、あるいはNDN(nonsynaptic diffusion neurotransmission)-非シナプス性拡散性神経伝達-における神経ホルモンが、ある特定の中枢細胞に届けられることで、その細胞集団が生み出す感覚と考えられています。

しかし、私は外傷、感染、器質的疾患を除いた痛みの多くは、「痛み記憶を形成する神経回路の過活動」であり、ここで言う“神経回路”とはまさしくセル・アセンブリであると考えています。つまり侵害受容ニューロンの投射を受けた特定の細胞の中で生み出される感覚とは別に、痛み体験の連続で強化された動的な神経回路(記憶)そのものが生み出す感覚もあるのではないか、というのが私の考え(仮説)です。

ちなみに幻肢の研究で有名なR・メルザック博士が唱える「神経マトリクス」という概念も、セル・アセンブリと同様に痛み記憶を説明し得るものです。


下がその概念を図式化したものです(前頭前野、帯状回、扁桃体、海馬、視床、DMN(デフォルトモードネットワーク)等を書き加えた新しい概念図を現在作成中)。

Cerebellum10


なぜこのような考えを持つようになったのか、そこに至る経緯を順次お話ししてまいりたいと思います。


人が体験する痛みの強さを指数化して順位付けした論文があります。それによると、1番強い痛みは初産婦の分娩時痛、2番目は経産婦の分娩時痛、3番目は腰痛、4番目はがんの痛みという結果でした。もし男が分娩時痛を経験したら、気を失うか、命を失うかだと主張する人がいるのも頷けます(もちろん事の真偽を証明することは不可能ですが…)。

「今まさに新たな命を生み出そうと凄絶たる激痛に耐えている妊婦が、分娩の真っ最中にぎっくり腰になったら、その女性はどちらの痛みを感じると思いますか?」

「麻酔のなかった時代の虫歯の治療。歯を紐で結えて馬や牛に引っ張らせて抜くという方法があったそうです。その激痛に耐えている真っ最中にライター(その時代にはないだろうというツッコミはご勘弁ください…)の火を足に近付けたとしたら、その人間は熱さを感じると思いますか?」

出産
とぎっくり腰の両方を体験したご婦人にこうした質問をぶつけると、その9割以上の方がぎっくり腰の痛みは感じない。ライターの火の熱さも感じないと思うと答えます。

私も同感です。脳は1秒間に少なくとも1000万ビットの情報を処理すると言われており、膨大な五感情報を絶えず処理しています。そのすべてを意識に上げてしまうと、実生活に大きな支障を来たします。衣服を着た瞬間は当然生地の肌ざわりを感じるわけですが、それをずっと感じ続けることはありません。これは「感覚器の順応」によって説明される現象ではありますが、中枢レベルの関与がまったくないわけではありません。

脳は精妙なシステムによって、意識に上げる情報と上げない情報を常に取捨選択しているということです。


脳はあらゆる五感情報を処理し、統合し、前述のように意識への上げ下げもコントロールしています。こうしたシステム全般を指して、私は『感覚統御』と呼んでいます。

「高校1年のとき、英語の教科書を開くと、mustという単語が緑色に見えた」と語る共感覚者。文字を見て色を感じたり、音を聞いて光を感じるなどの現象を共感覚と言い、そうした感覚を持っている人を“共感覚者”と言います。数万人に一人という割合で存在する共感覚者の方は、私が言うところの感覚統御の障害と捉えることができます。

五感のあいだにあるプライオリティーも、広い意味での感覚統御だと言えます。視覚優位と言われる霊長類においては、聴覚より視覚が優先される傾向が認められます。たとえばスクリーン上で「ガ」と発音させている人の顔を見せながら、実際には「バ」という音を聞かせると、被験者の脳は視覚を優先させるため、口を閉じない発音「ダ」や「ガ」に聞こえてしまいます(マガ-ク効果)。

視覚における感覚統御には興味深い現象があります。“倒立メガネの実験”です。被験者に「世界が上下逆さまに(天地逆転して)見えるメガネをかけさせる実験」を行うと、寝ているだけの生活だとそのまま“逆さまの世界”が続いてしまいますが、積極的に活動-物に触れて起き上がったり、歩いたり-して、接触刺激の情報を入力させると、脳は触覚の情報を頼りに正しい世界を補正解釈-知覚プログラムを修正-し、やがて視界が正立するようになって通常の生活が送れるようになります。

つまり倒立メガネをかけたまま正常な視野に戻ってしまうのです。


さらに別の実験では、被験者に左右反対に見えるメガネ(左右逆転メガネ)をかけて生活してもらったところ、当初はドアを開けることもままならなかったものが、次第にスムーズにできるようになり、その4日後にfMRIによって脳の活動領域を調べたところ、本来右視野に活動が現れる場面で左視野が活動していることが分かりました。

つまりメガネに合わせて、脳の視野が逆転したことになります

うした五感の統制処理に関する研究は始まったばかりで、詳しいメカニズムは分かっておりませんが、感覚を制御する中心的な何か-オーケストラの指揮者のような存在-を仮定すると、そのストーリを理解し易いのではとの思いから、私はその中心的な存在を指して、サムシング・ファイン(精妙なる何か)と呼んでいます。

011


実は、ぎっくり腰はBFI≪Brain-Finger Interface≫ (⇒研究会サイト) によって劇的に回復することから、ハード(肉体)の問題ではなく、ソフト(脳)の問題である可能性が示されています。BFI は「全身の関節周囲の骨を微かに触るだけ」という技術です。


ぎっくり腰の原因が、もし現代医学が説明するようなハードの問題だとしたら、BFI のごとき極微の刺激で即効的に改善するはずがありません。俄かには信じ難い話でしょうけれども、“劇的な回復(担がれてきた人が歩いて帰る)”は紛れもない事実です(実際の症例報告はこちらのページ)。

BFI は痛みの成因に対して新たな解釈…、すなわちぎっくり腰を脳の問題(ソフト論)として捉える視点の必要性を生み出したと言えます。


それではぎっくり腰をおこす人の脳内では何が起きているのか?それが理解できれば、現代人における痛みの謎も解けるのではないか。そんな思いがよぎった瞬間、すさまじいほどのインスピレーションが洪水のように頭の中に押し寄せてきました。2012年の9月のお彼岸の出来事です。

昨今の脳科学の研究成果のなかで、私がとくに注視していた知見、それは“小脳”に関するものです。大脳皮質の神経細胞の数およそ140億に対し、小脳のそれは1000(「三上研究室」三上章允・脳の世界より)。この違いが意味するものは何なのか?

(最新の研究では脳全体で800億という報告もあるが、いずれにせよ小脳のほうが多いことは間違いない…)


従来まで単に運動制御の場として位置づけられていた小脳ですが、実は行動・認識・感覚・情動といったあらゆる高次機能の統御を担う、たいへん重要な脳であることが分かってきました。

1970年代、小脳がパーセプトロン(ヘッブ則に基づく学習回路の一種)であるという説が提唱され、近年伊藤正男氏がそれを証明したことで、小脳研究は一躍脚光を浴びることになります。

たとえば、子供が初めて自転車に乗る時は、練習する過程においては大小脳連関ループ(大脳⇔小脳の神経路)で運動プログラムが作られ、最終的にそれを体得したあとは、小脳もしくは前庭核に「自転車に乗る運動プログラム」が保存され、以降は無意識の動作として小脳がプログラムを制御します(このとき個別の運動プログラムの劣化現象を指して、アスリートは“スランプ”と呼ぶわけです)。

人間の運動システム(ある種のプログラム)は小脳もしくは前庭核に保存され、多くの場合無意識下で再現されます(もちろん運動皮質からの命令が起点となることは言うまでもありませんが

しゃべる(口や舌の動き)、パソコンのブラインドタッチ、歯を磨く、文字を書く、姿勢を維持する、立つ、座る、歩く、跳ぶ、走るなど、これら基本動作の多く
は無意識下に行われており、その主要な役割を小脳が担っているということです(皮質からの命令と運動との誤差を検出して修正するという言わば“比較修正器”という概念は小脳機能の一部を表現したに過ぎず、実際にはもっと複雑な予測制御や“フィードフォワード制御”にも与っているというのが私の考えです⇒これについてはこちらのページ

して前述したとおり、小脳はあらゆる高次機能にも深く関与しています。

 最近の研究によって,小脳はさまざまな場合に活性化することがわかった。運動とは直接関係のない局面でも活発に働いている。小脳のある部分が損傷すると運動機能とは関係のない予想外の障害が生じ,とりわけ知覚情報を素早く正確に認識する機能に障害をきたすこともわかった。短期記憶や注意力,情動の制御,感情,高度な認識力,計画を立案する能力のほか,統合失調症や自閉症といった精神疾患と関係している可能性も示された。小脳は筋肉に動きの指令を出すというよりも,入ってきた感覚信号を統合する役目を果たしているようだ。】 Rethinking the "Lesser Brain"SCIENTIFIC AMERICAN August 2003)より

「…入ってきた感覚信号を統合する…」という表現は、私が言うところの“感覚統御”であり、前述したとおり脳は膨大な五感情報を常に処理しています。それらの多くは、実は意識に上らない情報であり、さらに行動(運動)における基本動作の多くも無意識下の制御です。

ということはつまり、脳の活動は内的(感覚の統御)、外的(運動の制御)のいずれにおいても、意識的なものよりも無意識下で行っている活動のほうがはるかに多いのです。

(事実、
脳が消費するエネルギーの内わずか5%が意識的な活動に、残り95%が無意識下の活動および細胞の維持修復と言われている)

そうした言わば“無意識制御”に特化している小脳は、極めて膨大かつ多彩な信号のやり取りを行っており、「感覚の統御」と「運動の制御」の両方に深く関わっています。

さらに小脳は大脳とのあいだに数千万とも言われるニューロン接続を有しており、その神経回路(大小脳連関ループ)に痛み信号が複雑に絡んできた結果が、痛みにおけるさまざまな生理現象を生み出しているのではないか。そんな私的な視点を踏まえつつ、ここからは痛みの世界を覗いてみたいと思います。

私は現代医学における神経痛の概念に異を唱え(こちらのページをご参照ください)、そのなかで、侵害受容ニューロンによる脳内マーキングという概念を提唱してきました。簡単に言えば、けがの大小に関わらず、組織が損傷された痕跡(記憶)が脳内に残るという考えです。

こうした考えを持つきっかけとなったのは、他院で坐骨神経痛と診断された下肢の激痛を訴える中年男性の症例です。私は臨床上の多角的な視点と理学所見を鑑みて、その患者さんの痛みが坐骨神経痛によるものではないという確信を持っていました。多くの時間を割いてあらゆる角度から問診を試みたところ、その方が或る事実を告白したのです。

「…先生、今思い出しました。私は子供のころ、親が養蜂をしていたのですが、蜂に太ももをよく刺されたんです。この痛みはあのときに蜂に刺された痛みとそっくりなんです」

ファントムペイン(幻肢痛)-感染や外傷などによって手足を失った人が、本来あるはずのない手足に感じる痛み-。CRPS(RSD)-“交感神経の機能異常”と“痛み中枢の活性化”を背景とする究極の慢性痛-。脊損麻痺部の腰痛-脊髄損傷で首から下が完全に麻痺しているにも拘らず訴えられる腰の痛み-。これらは中枢由来の問題であることを強く示唆しています。つまり脳の問題です。

ハーバード大学の教授Henry Knowles Beecherによる有名な報告-第2次世界大戦中のイタリア前線において、重症を負ったアメリカ兵士のうちモルヒネを要求したのはわずか32%、さほど重症とは言えない外傷例では83%-にもあるとおり、前線復帰のあり得ない重症例では「本国に戻れる」という安心感と幸福感がモルヒネと同等かそれ以上の鎮痛効果をもたらすわけです。つまり脳の問題です。

さらにプラセボ効果の存在。「思い込み」という精神機能によって痛みが消えるという事実。実はこの現象はあらゆる医療に介在しています。プラセボ効果の発現には「安心感」という要素が欠かせません。患者さんがある治療を受けるとき、治療自体あるいは治療者に対して抱いている安心感や信頼感の深さ(無意識に近いレベル)が、その結果に極めて大きな影響を与えるのです。プラセボ効果の発現には“信じる力の強さ”が深く関わっていると言えます。つまり脳の問題です。

実験用のマウスを小部屋に入れ、ある特定の音を聞かせた直後に電気ショックの痛みを与え続けると、やがてそのマウスは小部屋に入れただけで、あるいはその音を聞かせただけで頻脈、血圧上昇、すくみ行動をおこすようになります。これを条件恐怖反応と言います。

同様の実験を人間で行うとどうなるでしょうか。今となっては倫理上の問題があって現実に行うことはむつかしいと思われますが、もし行ったとしたら…、つまり『被験者を実験用の小部屋に入れ、ある特定の音を聞かせた直後に電気ショックの痛みを与え続けると、やがて被験者は小部屋に入るだけで、あるいはその音を聞いただけで頻脈、血圧上昇、さらには痛みを感じるようになる』という実験結果が得られるのではないか…、私はそう考えます。

この場合の被験者の痛みは心因性疼痛に分類される-私はこれを条件疼痛反応と呼びます-が、まさしくこの現象は“痛み記憶の再生”であると考えられます。骨折の整復-骨を引っ張って元に戻す-時、ボキッという“整復音”が鳴ることがありますが、子供の腕の骨折整復に立ち会った母親が、その音を聞いた刹那、自分の腕に痛みを感じたという現象があります。

このように本来知覚するはずのないものを、脳が創り出してしまう現象は、錯覚の研究領域では“補完”と呼ばれています。これは人間の感覚統御において、実際にはない対象-欠落している箇所-を過去の体験・記憶を基に無意識的に“創ってしまう”現象です。
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その例として、錯視における“色の残効”や錯聴における“連続聴効果”があります(それぞれの文字をクリックすると、実際に体験することができます。これらを知らないという方は是非一度お試しあれ。相当に驚かれることでしょう…)。

こちらのサイトで色の残効-補完という脳の働き-を実際に体験された方は、以下の画像説明の意味がお分かりいただけると思います。

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015       (上記画像はTBS「人間とは何だ-最新脳科学ミステリー-」より)


補完による“あるはずのないカラー写真”すなわち“架空の情報”を創り出している本態は何なのか?どんなニューロン活動によるものなのか?これこそがまさしくセル・アセンブリであろうというのが私の考えです。直後に白黒写真に戻るという現象に対しても、セル・アセンブリの変化だと考えれば説明がつきます。

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こうした“補完”という脳の働きに加え、小脳が運動プログラムの構築と再生の場であると同時に、「認識や感情の制御から感覚の統御にまで関与しているかもしれない」という脳科学の知見…。これらから導き出された私の推論は以下の通りです。


{………人間の動作パターン(運動プログラム)は小脳もしくは前庭核に保存され、多くの場合、無意識下で再現される(姿勢維持・歩く・走る・立つ・座る…)。

幼少時からの痛み体験の連続-些事の積み重ね-はケガの大小に関わらず、痛みの体験・記憶として脳内に残る。

このとき感情を統合するシステム(感情プログラム)の神経回路網に何らかの変化が生じると、小脳における信号伝達の輻輳がおこると同時に、運動プログラムのエラーが発生し、過去の体験・記憶を基に予測制御の形で感覚を統合する“補完”の働きにより、痛み記憶が再生される。

すなわちエラー状態にある運動プログラムと痛み記憶とのリンクが生じる。

また感情プログラムのエラーにおいてはニューロン活動の乱れが波紋のように広がることで、痛み記憶と直接リンクする神経回路が形成されると同時に、負の感情との連合記憶(脳内の離れた別々の記憶回路が同期する現象)が作られる。

こうして感情および運動プログラムのエラーに伴って過去の痛み記憶が再生される状況が生み出される。

このとき“補完”を実行するニューロン活動は固定された神経回路というよりも、短時間に柔軟に変化する動的な神経回路である可能性が高いことから、その実態はまさしく“セル・アセンブリ”であろうと考えられる……}

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尚、安静時痛に関しては、小脳の姿勢制御プログラムもしくは感情プログラムに痛み記憶がリンクしている状態と見なすことができます。

このとき感情の制御プログラムが正常に動作しないと、本人が知覚できない領域で負の感情が持続すると同時に、痛み記憶の再生も続いてしまいます。この痛みの特徴は「何かに夢中になっている時は一切感じないが、何もしていないときに“常に感じる”」というものです。

よって、以上を整理すると以下のようになります。

◆運動時痛のみ⇒『運動プログラムに痛み記憶がリンクしている状態(A)
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安静時痛のみ⇒『感情プログラムに痛み記憶がリンクしている状態(B) または『姿勢プログラムに痛み記憶がリンクしている状態(C)  
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◆運動時痛と安静時痛の両方⇒『 (A)プラス(B) または
(A)プラス(C)

※痛み
記憶=セル・アセンブリ  リンク=フェーズ・シーケンス


腰痛・肩こり・膝痛といった運動器の慢性痛はもちろんのこと、頭痛・胃痛・生理痛などの深部痛から幻肢痛(ファントムペイン)、CRPS(RSD)、線維筋痛症、うつ病性疼痛など難治性の痛みも含め、その多くは痛み記憶の再生に過ぎないというのが私の考えです。子宮摘出術を受けた女性に現れる“生理痛”も痛み記憶の再生と考えれば説明がつくわけです。

人間は悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか、研究者によって意見が分かれていますが、私個人の回答は、“両方”です。胃は炎症を起こすから痛いのか、痛みを感じるから炎症を起こすのか。私の答えは“両方”です。関節は炎症を起こすから痛いのか、痛いから炎症を起こすのか。私の答えは“両方”です。

ちなみに出産直後の赤ちゃんが泣くのは、「この世に生まれ出たことが嬉しい、嬉しいと泣くんだよ」と、ある子供の患者さんから教えられたことがあります。もっともこれは医学的な見解云々ではなく、物の見方、解釈の余興話ですが…。


私たちが無意識に抱える先入観、思い込みというものは、実は相当に根深いものがあります。「痛み=組織の障害」という先入観すなわちハード論に固執したままでは、痛みの真の姿を捉えることは絶対にできません。痛みはさまざまな条件で変質することが分かっており、これらは明らかに“ソフト”の問題です。

たとえば動物実験において、気温の変化が痛みを増強させることが確認されています。反復寒冷ストレス(SARTストレス)という実験(ラットやマウスを1時間おきに室温(24℃)と冷室(-3℃~4℃)に交互に入れる)を4~5日続けると、その後2~3日間痛みの閾値がずっと低下したままになる-痛みを感じやすくなる-ことが分かっています。

末期がんにおけるモルヒネの使用量は入院中の患者さんと在宅の患者さんでは、後者のほうが少ないという調査結果があります。

痛みはこうした環境の変化のみならず、人間自身の“認識”の影響も強く受けます。ヒトの感覚は個人が所有する認識によって色づけされるという特性を有しており、そのため認識の転換が、感覚の変容をもたらし、それによって痛みの質や程度が変わるという現象がおこり得るのです。⇒シャクタ-・シンガー理論

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認識の転換とはどういうことでしょうか?少しだけ説明させていただきます。

痛みが認識と感情によって変質する分かりやすい例は“辛味”です。「辛い」という感覚は、実は味覚ではなく“痛覚”です。舌の細胞には甘味、塩味、酸味などのセンサーはありますが、辛味センサーは存在しません。辛味は痛覚センサーがキャッチして脳に届けているのです。つまり辛いという感覚の実体は痛みです。しかし“辛い(痛い)=美味しい(好き・快感)”という人間もいれば、“辛い(痛い)=不味い(嫌い・不快)”という人間もいます。

その理由は人種や体質などを含め遺伝子のレベルで説明され得るものでしょうけれども、私は人間の“認識”に負うところもあると考えます。健康番組を見て、「カプサイシンが身体にいい」という情報を得たとき、それを深く納得した者は多少辛くても「健康にいい」という認識が、辛さ(痛み)をポジティブな感覚に変えます。反対に、胃腸の弱い人間が「辛いものは刺激が強過ぎて良くない」という主旨の情報を受け取れば、辛さ(痛み)に対してネガティブな感情を抱きます。

あるいは消化器官と脳の相互関係において、肉体の欲求と脳の欲求が一致するタイミングで偶然食した辛い料理に対して、初めて「美味しい」と感じたのを機にポジティブな認識を持つようになることもあれば、その反対も起こり得ます。

同様に初めて受けた強い指圧マッサージで、良好な結果を得た人間は、以降マッサージにはポジティブな感情が残りますが、不良な結果を得た人間はネガティブな感情を持つことになります。結果、前者では「イタ気持ちいい」という感覚世界が構築され、後者には「イタイだけ」という帰結が残るのです。

人間の感覚は情報や原初体験によって何らかの意味づけが成され、「ポジティブ・ネガティブ・そのどちらでもない」のいずれかに色づけされていきます。ちなみに、このように認識と感情が感覚そのものを変質させるという現象は、果たして人間特有のものなのか、他の動物にも起こり得るのか、興味深いところではあります(これを調べるためにデザインされた実験の有無は不明ですが)。


現代人は【痛み=組織の障害】という認識を深くすり込まれており、【痛み=ネガティブ】という感情を無意識の領域にまで刻まれています。【痛み=組織の障害=ネガティブ感情】という回路(ある種のプログラム)を無意識のうちに抱えています。


新鮮外傷や感染、明らかな器質的疾患がないという前提において、【痛み≠組織の障害】⇒【痛み=脳内での記憶の再生】⇒【痛み≠ネガティブ感情】という流れによって、認識の転換と感情の変容がおこれば、すなわち感情プログラムのアップデート(書き換え)に成功すれば、それだけで痛みが変わる可能性が…。

そこで、私はある実験を行いました。自身の人生において、3度目のぎっくり腰を起こした際、ほんのわずかな体位変動にも壮絶たる激痛を感じるなか、「よし、認識の変容が感覚の変質に結び付くかどうか、今から実験しよう!」すなわち「痛みは快感なんだと自分に言い聞かせてみよう!」。そして激痛を感じるたび「イテー、否違う、これは気持ちいいという感覚だ!」という自己洗脳をひたすら繰り返したのです。

激痛を感じるたびに「快感!気持ちいい」と叫び続けたのです。激痛と同時に「気持ちいい!」、激痛と同時に「気持ちいい!最高!」と。
すると、その数時間後には、なんとそれまでの激痛-VAS10が、6レベルの痛みに変質し、通常の動作が可能となり、2日後には痛みが完全に消えていたのです。

現代医学が発信する痛みの情報と臨床のあいだには多くの齟齬があります。これについては『当ブログ』の「腰痛と画像診断」「椎間板ヘルニアの夜明け」をお読みいただければと思います。


さて、ここからは“感情のねじれ”についてご説明したいと思います。

痛みの成因について、私は先ほど感情プログラムの神経回路網に何らかの変化が生じると……、これが痛み記憶の再生に繋がると説明しましたが、“何らかの変化”とは何を指すのか?これこそがまさしく“心身環境因子による脳内神経活動の偏り”なのです。その分かりやすい例として、小さな麻雀店を経営する70代女性Aさんの症例を紹介します。

彼女は5年前に夫に先立たれ、2年前から耐え難い膝痛に襲われるようになり、変形性膝関節症と診断されました(患側は右だが、画像上は無症状である左のほうが変形高度すなわち画像診断の齟齬を抱える典型例)。

実は2年前に自身の体力の衰えを理由に、麻雀店の閉店を決断したところ、お店の常連さん達から「絶対に止めないで欲しい」という強い要望を受け、とりあえず営業を続けることにしました。「本当は止めたいのに止めることができない」というジレンマのなかで膝痛を発症していたのです。

本人は常連さん達から言われた「止めたらボケちゃうぞ」という言葉に「それも一理ある」と、自分の思いを理屈で無理やり抑え込んでいますが、実際は「お店の和式トイレで用を足すのがとても辛い。でもあと何年も使わない設備のリフォームにお金をかけるのは…。仕事が終わって帰宅するのが毎日深夜3時という生活も心底きつい。でも今までお店を支えてくれたお客さん達の声を無視するわけにも…」というのが本当の気持ちなのです。

こうした“心身環境因子の影響による感情のねじれ”が痛み記憶の再生を引き起こしているというのが私の見方です。

患者さんへの問診とカウンセリングを日々極め続けると、多くの慢性痛の背景にこうした“心身環境因子の影響”を見出すことができます。ただし患者さんにとって心の内実を披歴する行為は必ずしも容易なことではなく…。

また内観力(自身を客観的に分析する力)には個人差があります。したがって通常の診察、問診では、私が主張するような“心身環境因子の問題”を医療者が見出すことは簡単ではないと推察されます。

もっとも、たとえ披歴するに至ったとしても、痛みとの関係性を受容できる人は極めて少数…。膝が痛いのは軟骨がすり減っているから-整形外科が掲げる常識-を信じて疑わない人が圧倒的多数…。

実際Aさんもその例外に洩れず、最後まで痛みのソフト論を受容することはありませんでした。当方の施術(BFI)によって運動機能が改善した-初診時は痛みのためにしゃがむことが不可だったものが通院3回目の時点では苦もなくしゃがむことができるようになった-にも拘らず、喜び感情を一切見せることなく、当方の治療を中止されました。

初診時にAさんが語った内容は「近所の整形でヒアルロン酸注射をしてもらっているけれど痛みが取れない。とにかく和式トイレでしゃがむことができないのが一番辛い…」でしたが、その苦痛が解消されたにも拘らず、何かしたわけでもなく突然込み上げてくる痛み(安静時痛)が不変との強い不満を漏らし、通院4回目に「やっぱり整形外科で注射してもらいます…」でした。

Aさんのケースを、私の解釈で説明すると以下の通りです。

「しゃがむ」という動作(運動プログラム)にリンクする痛み記憶については、その結びつきを遮断-リンクを解除する-ことに成功したが、感情プログラムと痛み記憶とのリンクについては解除することができなかった(こうした安静時痛-しかも関節への物理的なストレスとは無関係に現れる痛み-についてはデフォルト・モード・ネットワークが関与するというのが私の考え。これについては別の機会に詳述する…)。

ソフト論を受容することができないAさんの脳はハード論(軟骨がすり減っているがために痛む)に支配されており、“傷ついている部品を修理しない限り痛みは消えない”というロジックが邪魔をしているため、感情プログラムのアップデート(書き換え)が妨げられていた。

であれば、そもそもの話、Aさんはなぜ当方のようなところを受診したのか?これについては旧知の友人から強く勧められたため、義理チョコならぬ義理受診をしたと推察される…。

人間は意識の深部で既に答えが出ているにも拘らず、それに気づけない、自分の本心を知覚できないときがある。おそらくAさんの意識深部には「自分は整形の注射で治る」という答えが出ていたはず…。

ところが医師の対応、あるいは何らかの偶然の連鎖において通院先に対してネガティブな感情を抱いた可能性があり、そのタイミングで友人から当院を薦められたのをきっかけに“ちょっと浮気してみたくなった”というのが私の見方…


私の経験値において、Aさんのようなケースに遭遇することは日常茶飯事であり、とくにAさんの場合自説を補完し得る“ある事実”が包含されています。現代医学が掲げるように軟骨の摩耗が本当に痛みの主要な原因だとするなら、運動時にこそ大きな影響が現れてしかるべきでしょう…。ところがAさんのケースでは「運動時痛はほぼ消失し、安静時痛のみが不変」だったわけです。その反対ならまだしも…。


1996年アメリカン・ジャーナル・オブ・メディスンに掲載された「変形性膝関節症の痛みがプラセボ手術(偽手術)で消えた」というベイラー大学での有名な実験報告(詳しくはこちらのページ)はまさしく自説を裏づけるものです。プラセボ手術は患者さんの感情プログラムをアップデートし得る強力な介入法だと言えます。
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痛みに悩む人々が深層心理に抱える“心身環境因子の問題”は、脳機能画像上に“小脳の過活動”として描出され得ます。下はエビデンスのある心理療法として注目を集めているEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)の治療前後における脳機能画像です。NHK「クローズアップ現代」より。

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ここで、私が痛みのソフト論へ向かわされることになった原点に戻りたいと思います。そもそも「ぎっくり腰がBFI のごとき極微の刺激で即効的に回復するのはなぜか?」という疑問がすべての出発点でした。
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その理由を考えるに当たり、まず小脳の働き-パーセプトロン説、感情や知覚等の統合、個別の運動モデル生成(本論では運動プログラムという用語を使用)等々-に注目したわけですが、さらに以下の私見…。

『小脳は極めて高度な予測制御を行っており、虫の知らせ、胸騒ぎ、予感といった時覚 を創出している可能性がある。


また過去の経験や記憶に基づき無意識下で実行される“脳内補完”および倒立メガネの実験に見られる“視野の正常化”においても小脳が深く関わっていると推論される。

さらに小脳を摘出したサルの運動準備電位が顕著に減っていたという報告があることから、ベンジャミン・リベットの実験で明らかになった意思の創出350ミリ秒前に現れる運動準備電位のニューロン発火にも小脳が関与している可能性が高い』  

(※「時覚」…“ときかく”と読ませる私の造語で、英訳すればtime sense。“時間”を感じる感覚。第七感とも言うべきこの“時覚”が異常発達したものが予知夢や予知能力なのでは?小脳と予測制御の関係については別ページで詳述する予定)

こうした独自の視点を踏まえ、痛みにまつわるさまざまなミステリー(幻肢痛やCRPS等)を念頭に置きつつ、先に紹介した脳機能画像の小脳所見を受け、私が導き出した推論は…。


『心身環境因子の影響によって脳内の神経回路に歪み(ネットワークバランスの偏り)が生まれると、やがて小脳の異常活動が
引き起こされ…、これが極限に達した時、その一部機能が緊急停止する!

すなわち小脳が制御する運動プログラムの一部がシャットダウンすると同時に、痛み記憶の激甚再生を引きおこす。これこそがぎっくり腰、四十肩の激痛発作である。

初発のぎっくり腰は痛み記憶が極大形成(フェーズ・シーケンス)された瞬間と考えられる。急性腰痛の9割が治療せずとも自然回復すると言われているが、これは小脳にまたがる一部運動プログラムのシャットダウンとそれに続く再起動だと考えれば説明がつく』


このように捉えることで、近年とくに物理的な負担がない状態で、あるいは軽い作業中に発症するぎっくり腰が増えている事実(私個人の臨床データではそのほとんどがこうしたケース)との整合性が得られます。


前述した私個人の体験-人生3回目のぎっくり腰-においては、長いあいだ親元を離れていた私がある事情から急遽実家に戻ることになり、引越しに向けて種々手続きを進めている最中の発症でした(重たい物を持ち上げたわけではなく、あくまでも軽作業中の発症)。

その渦中…、あまりの痛さに「本当に自説は正しいのか」と思わず疑ってしまったほど…。

「こんなに凄まじい激痛が“記憶の再生” “脳内補完”だなんて、にわかには信じ難い…。こんなにリアルな痛みを本当に脳は創り出すのか…。信じろと言うほうが無茶な話。世人に理解してもらえないのも道理…。それにしても痛い。痛すぎる…」

痛みにもがき苦しみながらも、しかし先に紹介したとおり、“認識の大転換”実験によって“自説の証明”に成功したわけですが、痛みが落ち着いたあと、すぐには思い当たらなかった自身の“心身環境因子の問題”とりわけ感情のねじれについて、冷静にじっくりと内省することに…。

「それにしても何だったのだろう?あれほどの痛みを起こさせる“感情のねじれ”とはいったい?」

数日ほど内観を極めるなかで「も
しかしてそういうことなのかな…」という大凡の見当はついたものの、しかし確信が持てないまま25年ぶりの両親との同居生活が始まりました。すると幼少時から学生時代までの様々な記憶が当時の感情と共に蘇る日々…。無意識の深いところに仕舞い込んで忘れていたものが次々に…。

そうして半年が経ったころ、自分の中の“感情のねじれ”の正体が明確に覚知されたのでした。

子供の頃に体験した嫌な記憶、思い出しくない記憶というものは無意識の一番深い場所に保存されやすいことは知っていましたが、まさか自分が…。私は社会人になると同時に独り暮らしを始め、結婚して後も実家と距離を置く生活を送ってきました。体面上は仕事上の都合でしたが…。


しかし私の無意識には親と一緒に暮らすことへの辟易たる嫌悪感、恐怖心のようなものがくすぶり続けていたのです。そういう感情を無意識下に押し殺していたのです
。そういう自分に気づくのに半年を要しました

実家に戻ることが決まったとき、表面意識には立派な建前、道義というものがあり、極めて理性的な判断に沿って動いているつもりでしたが、私の心の深いところでは凄まじいほどの葛藤があったのです。
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「本心としては同居したくない、でも同居しなければならない」という“感情のねじれ”を抱える中(表面意識はそれを知覚できない)、引越しに伴う種々手続きや実家への気遣い-両親の心に去来しているであろう様々な思いを酌み取りつつ、さらに家内と両親との関係に対する最大限の配慮等-の限りを尽くしてありとあらゆる気配りをしつつ完璧なる準備を…。

そうした意識活動の亢進がピークに達したとき、私の小脳の一部が緊急停止したのです。苛烈を極める痛み記憶の再生-脳内補完の激化-を伴いつつ
…。
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おそらく感情のねじれを水面下に沈めようと、力づくで抑え込むための極めて理性的な意識活動の亢進こそが、痛み記憶の再生スイッチを入れ得る最大の引きがねになるのだ-Aさんのケースもまさしくその渦中だった-と、私は考えています。過去の経験や記憶に基づいて予測制御的な働きをする脳内補完というメカニズムによって…。

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人間の深層心理に潜む“感情のねじれ”というものは、比較的覚知しやすいもの、そうでないもの、あるいは私のように覚知するまで相応の時間を要するものまで様々な次元があり、さらに前述したとおり披歴する行為の壁や内観力の個人差等も手伝って、通常の問診では分かりにくい-容易に
判明し得るものではない-というむつかしさがあります。

しかし私個人の体験からも、そしてこれまで積み上げてきた膨大な臨床例からも、“それ”は確かに存在しているという思いが私には…。

ぎっくり腰、四十肩の激痛発症(フローズンショルダー)、頸部の激痛(いわゆる寝違えを含む)、股関節の激痛症例(変形性股関節症を含む)。これらはすべて同じメカニズムであり、その多くが痛み記憶の激甚再生だというのが私の考えです。


様々な心理社会的因子に囲まれている現代人にとって、そもそも感情のねじれと無縁な人生なんてあり得ない気がしますが、仮に多くの世人がそういう精神状態に置かれているとして、それだけで痛みが出るケースはおそらく少ないと思われます。

あくまでも感情のねじれが前提にあって、そこに意識活動の亢進すなわち思考プログラムの過活動が加わったときはじめて、脳の代謝バランスが著しく崩れるのではないでしょうか。


意識活動の亢進は特定の神経回路に極めて大量の信号が流れ込むことになり…、
こうした神経の異常活動によって言わば神経回路がパンクしてしまうような事態を事前に阻止すべく脳の自衛プログラムが発動した結果が運動器の激痛発作だというのが私の見方です。

実際“激痛の効果”は絶大であり、ほとんどの人間が思考力を奪われる顛末となります。つまり、ようやく考えることを止めるのです。思考回路のオーバーヒートを食い止めることができるのです(なかにはそれでも尚考えることを止めない人も…。その具体例はこちらのページ)



プライマリケア(初期医療)において、突然発症による激痛症例を診る際、医師が念頭に置くべき4原則があります。破れる、詰まる、裂ける、ねじれる…。このいずれかが血管系、消化器系でおきた場合、重篤な病態が予期されるからです。明らかな外傷機転がないままに自然発症する運動器の激痛発作に関しても、まさしく4原則のうちの一つ“ねじれる”に該当するものだと言えます。

ただし、同じねじれでも、腸捻転などと違って-ましてや筋肉や骨格のねじれなどでもなく-、その原因は「“感情のねじれ”とそれに伴う意識活動の亢進」なのです。
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動物の脳幹部に電極を挿入し、交感神経と副交感神経を別々に刺激すると、頻脈、遅脈が起こりますが、同時に刺激すると必ず不整脈が起こります。これは動物の精神に強いねじれが発生すると、自律神経の調和が乱れて不整脈が起こることを示唆しています。
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人間の場合“感情のねじれ”が発生し、大脳~小脳にまたがる神経回路の一部にエラーが生じると、運動プログラムが劣化します。それが如実に現れるのがスポーツの現場です。小脳(もしくは前庭核)の運動プログラムに痛み記憶が侵蝕していない選手であれば、「痛み症状のないスランプ」つまり“単なるスランプ”となり、痛み記憶が侵蝕している選手の場合「痛みを伴うスランプ」となるわけです。

したがって、プロのアスリートが引退するきっかけは、年齢による衰えを除けば、その多くは“小脳(もしくは前庭核)の運動プログラムの劣化”にあると言うことができます。さらにアスリートがメンタルトレーニングをすることの真の意義は、感情のバランスを維持することで小脳にまたがるニューロン活動の不調和(運動プログラムの劣化)を未然に防ぐことにある、というのが私の考えです。

さて、ここで一旦これまでの流れを整理したいと思います。脳内補完を指揮する仮想の存在“サムシングファイン”に再登場いただき、人間の痛みを脳代謝の視点から眺めることで、その生成理由を論じてみたいと思います。

『きわめて複雑化した現代社会において、人類の感受性が多様化するとともにメンタルバランスへの影響を受けやすい個体が増えている。

そうしたなか、いわゆる“感情のねじれ”(本当はこうしたいという深層心部に抱える真情と、しかしこうせざるを得ないという現実との葛藤)に付随する意識活動の亢進(思考回路の過活動)が引きがねとなり、脳内神経回路の不調和が発生すると、最終的に小脳回路の異常活動を引き起こすと同時に痛みの記憶回路が賦活される…。

これが私が唱える“痛み記憶の再生理論”である。

心身環境因子の影響を受けて顕在化する脳内神経活動の偏り、すなわち脳代謝バランスの不均衡が許容範囲を超えると、サムシングファインはこれを是正、回復させるべく他領域の神経回路を賦活させることで代謝バランスを回復させようと企てる。

そのターゲットとして白羽の矢を立てたのが“痛みの記憶回路”である。

痛みの回路はひとたび賦活化されると、一定レベル以上の持続性を有し、生体の活動レベルを低下させると同時に意識活動の抑制に繋がる。

つまり思考回路の過活動を鎮めることで脳代謝バランスの回復が為され得る』


サムシング・ファインの仕事を考える時、2つの視点から捉えることができます。ひとつは「知覚統合の簡素化および効率化」であり、もうひとつは「脳代謝バランスの監視および回復」です。前者はこれまでの研究で脳内補完と呼ばれているわけですが、後者もまた脳内補完と呼んでいいのではないか…。

なぜなら後者において補完しようとする対象は「血流・酸素消費・神経ホルモン分泌等の低下減少」ではないかと考えられるからです。

『神経回路の活動異常によって生じた脳代謝バランスの不均衡は、局所の代謝亢進と別の領域の代謝低下を引き起こす。

脳全体の血流量はほぼ一定であるため、局所に過度な血流が集まれば、当然他のどこかの血流が低下することになる。

このとき血流を含めた代謝が極度に低下した部位を“欠落個所”として見なしたサムシング・ファインがそれを補完すべく血流を調節せんがため、過去の記憶すなわち痛み記憶を形成する神経回路を賦活させ、同回路の血流を増やすことで代謝バランスを変えようとする営為ではないか』


Painhomeo
この理論に従えば、うつ病、閾値下うつ、抑うつ状態の患者がもし激痛発作を起こしたなら、それは大うつ病の発症(うつ病の重症化)を回避するために行った脳の自衛措置だと言えます。
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脳梗塞を発症した脳では、直後に反対側の脳(例えば、右脳の一部に梗塞が起きたら、左脳の一部)の血流が増えることが知られています
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ちなみに梗塞の周辺領域において、脳は即座に新たな神経回路を作り始めるそうです。崖崩れで通れなくなった道路そのものを修復するのではなく、いちはやく迂回路の道路建設を始めるのです。こうした新たな神経回路を形成する働きは神経のリモデリングと呼ばれています。このリモデリングを推し進める現場監督ももしかしたらサムシング・ファインかもしれません。

それはさておき、少なくとも脳梗塞直後に、反対側の脳の血流を増やしているのは間違いなくサムシング・ファインの仕事です(反対側の血流を増やす理由については自論を持っていますが長くなるので別の機会に詳述します。ここでは脳内の離れた領域同志が同時に活動する同期現象-量子もつれ-の補完とだけ申し上げておきます)。

こうした自説を科学的に証明することは、現状において困難かもしれませんが、しかし脳科学の発展はいつの日か必ず、私論の正誤を証明してくれることでしょう。
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最後に私の“痛み哲学”を披歴させていただきたいと思います。
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「痛みは生命エネルギーの燃焼現象。太陽に譬えるとフレアーのようなもの。生命が何らかの重大な局面を迎えたときに、命の炎を最大限に燃やす現象。その象徴が出産。新たな命を生み出すとき、それは生命フレアーが極限まで燃え上がるとき。だからこそ分娩時痛が人類最大の痛みなのだ。
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もちろん生命が危機に瀕したときにも同様の現象がおこる。けがをした時も、癌細胞の増殖を許した時も、管腔組織が閉塞した時も…。

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さらに無意識下の感情が理屈によってねじ伏せられた時も生命フレアーが起こる。おそらくは「感情のねじれ」こそが脳全体のエネルギーバランスをもっとも狂わせる極めて危うい状況なのだ。
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脳はそれを食い止めるため、一時的に無意識制御系の一部をストップさせる。大脳皮質の機能を奪うわけにはいかないので、小脳の運動プログラムを復元可能なレベルにとどめつつシャットダウンさせる。脳にとっては究極とも言える自己防衛措置。それだけのことを行うのだから生命フレアーがおきて当然である」

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最終的に生命が終わりを迎える時、すなわち命の炎が尽きる最後の瞬間は、痛みという感覚も消えうせ、あらゆる五感が無に帰していく。したがって死ぬ直前にはもはや痛みはない。無感覚の世界からあの世へと旅立つの

「ぎっくり腰が感情のねじれをストップさせる緊急避難措置」という自説が本当ならば、実は分娩中の妊婦がぎっくり腰を起こすことは極めて少ないはず。あり得ないと言ってもいいかもしれない。なぜなら生命を生み出す行為というものは感情や理屈を超えた世界だと、私は思うからです。ですから、冒頭の質問にある状況は“あり得ない設定”なのかもしれません。
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人が私の考えを受容し、痛みの認識を変えることができたなら、そして【形態の変化≠痛み】と同時に【痛み=脳の問題】という事実を真に理解することができたなら、どれだけ多くの人々が救われることか。
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世の中にある数多の治療法-電気治療、カイロ、整体、マッサージなど-から、運動系の療法-体操、ストレッチ、ヨガ、ウォーキング、水泳、筋トレなど-。これらは結局何をしているのかと言えば、それぞれのやり方で脳のプログラムにアクセスしようとしているに過ぎません。
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方法は違えども最終的に働きかけているのはあくまでも“脳”なのです。だからこそ、そのそれぞれに良くなる人々が存在しているのです。
方法の数だけ原因があるのではなく、あらゆる療法のアプローチ先が実は“同じ”だから、痛み治療の世界にはたくさんの名人、達人と呼ばれる治療家がいるということです。
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良くなる人たちに現れる変化は見た目にはハード(肉体)の領域として映りますが、実際はソフト(脳のシステム)が変わった“結果”に過ぎません
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脳への介入が成功すれば、すなわち修正プログラムのインストールに成功すれば自ずと結果がついてくるわけですが、しかし治療や運動の最中に痛み記憶が再生され得るやり方-強い刺激、強い伸張運動、速い他動運動等を加えることで痛み記憶の再生回路を遮断させようとする手法-にあっては、例えばCRPS(RSD)準備状態にある生体-感受性が亢進している脳-には絶対的に禁忌…。
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疼痛感受性の増している脳に対しては、「痛みを伴う修正プログラムのインストール」は成功しません
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過度な刺激はプログラムの書き換えをするどころか、かえって痛み記憶の強化を招きかねない。痛みの最終ターゲットは脳である以上、肉体レベルでのリスクを限りなくゼロに抑えたほうが、より安全に、より確実に脳にアクセスすることができます。
プログラムの書き換えがよりスムースに行えるということです。
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このあとも、引き続き「痛み記憶の再生」について、私なりの考察を続けてまいりたいと思います。稚拙な理論ではありますが、できれば今後ともお付き合いいただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました。
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              2012年12月8日     BFI 研究会代表 三上敦士

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追伸

世界中の研究者の方へ。

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私は臨床のスペシャリストであり、基礎研究を行う環境も、その資格も持ち合わせておりません。

もし自説にご興味を抱かれた研究者の方がいらっしゃいましたら、是非とも私論の正誤を見定めるべくしかるべき研究をデザインしていただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。また、当シリーズ「痛み記憶の再生①~」を英訳して世界に発信していただける方がおりましたら望外の喜びです。心から感謝の意を表したいと存じます。

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尚、このページはリンクフリーとさせていただきます。あらゆる場に貼りつけていただくことで、少しでも多くの方の目に留まることを切に希望するものであります。
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