BFI 研究会代表ブログ

フォト

カテゴリー

無料ブログはココログ
2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させり理由-DMNとミラー療法-

2015/09/01

無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させる理由②-DMNとミラーセラピー-

トップページ
当記事は《無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させる理由①-脳内補完とソフトペイン-》の後編です。

前編①において『運動器の臨床で遭遇する痛みの多くは脳のシステムエラー(ソフトペイン)である』という私論を披歴しましたが、実は関節拘縮においてもその多くがソフトペイン由来、つまり脳の問題だと言えます。

俄かには信じ難い話でしょうけれども、紛れもない事実です(本記事の後半で詳述しますが、ミラー療法が関節拘縮を改善させる事実を私は発見しています)。

関節拘縮の真の原因は脳にあります。その理由について、少し説明させていただきます。

私はかつて整形外科に勤めていた当初から、ある疑問を抱いていました。骨折症例においてギプスを巻いて固定すると、関節が固くなってしまうためリハを行う必要があります。ところが、なかには拘縮を起こさない症例もあるのです。拘縮の程度にも個人差があることがすぐに察知されました。

なぜ拘縮には個人差があるのか?そんな疑問を抱えつつも、当時はAKA‐博田法を実践していたこともあり、ハードの領域(関節包内運動)だけを追いかけていたのです。

ところが、AKA-博田法をもってしても回復させることがむつかしい関節拘縮、すなわちCRPS(RSD)の難治性拘縮に出遭ったことで、ソフトの領域を深く考えるようになりました。

なぜなら「CRPS(RSD)の拘縮では主動作筋と拮抗筋の同時収縮が起きている」という説があったからです。例えば、肘関節の拘縮で言えば、屈筋(上腕二頭筋)と伸筋(上腕三頭筋)が同時に収縮してしまうため、その拮抗があたかも拘縮のように見えてしまうという説です。

これが正しいとすれば、「筋の協調性の乱れが極限に達した現象が拘縮の正体」ということになるわけで、当然これを引き起こしている犯人は中枢にあるということになります。当時は脊髄機能撹乱説が有力でしたが、私はもっと高次レベルに原因があるのではと考えていました。つまり脳です。

CRPS(RSD)の患者さん方に見られる気質的な傾向-感受性の強さ、患部への意識固着、予期不安等々-(もちろん傾向であって全例に当てはまるわけではない)に注目していた私は、筋の協調性を悪化させる原因はおそらく脳にあると睨んでいたのです。そしてその淵源は最初の診察現場に潜んでいるのではないかと考えました。

整形外科を受診し、レントゲン検査で骨折が判明した患者さんはたいていその場で「ギプス固定を○×週間ほど行います。そのあとは固くなった関節を柔らかくするためリハビリを行います…」という趣旨の説明を医師から聞かされます。

さらにギプス固定中には、骨折を知った友人、知人からお見舞いや労いの言葉をかけられた際、「骨折したあとのリハビリってたいへんよ。義母が骨折したことがあるんだけど、リハビリ中にあまりの痛さに悲鳴を上げていたもの…」みたいな話を聞かされることが、けっこうあるのです。

最初の診察で、あるいは通院中に周囲からそうした情報を受け取った当人は、先入観として「関節は固まる。リハビリはたいへん…」という意識を植え付けられている可能性が高いわけで…。

ということはつまり、拘縮の個人差はこのあたりに源を発しているのでは?もしそうであるなら、関節が固まるという先入観を消し去ることができれば、拘縮の発生を最小限に抑えることができるのでは?そんな思いを抱いた私は、ある実験を試みたのです。 骨折の患者さんに対して、従来とは真逆の先入観を植え付けることができたなら、拘縮はどうなるかという実験です。

当時、骨折の固定材料が石膏ギプスから軽い素材のプラスチック製ギプスに切り替わった時期でしたので、それを口実に次のような説明を患者さんに行いました。 「以前は重たい石膏製のギプスでしたので、固定後に関節が固まることが多かったのですが、今はこのように軽いギプスになっています。そのため固定しても関節は固くなりません。リハビリも必要ありません。どうぞご心配なく…」

接骨師という立場ながら、当時の私は整形外科の副院長を勤めており、外傷管理、物療、リハビリの多くを任されていました。そのため、このような実験を行うことが可能だったのです。

すると、その結果は驚くべきものでした。明らかに拘縮の発生率が下がり、たとえ拘縮を起こしたとしても、その程度が相対的に軽くなっていたのです。なかには強固な拘縮を起こしてしまう症例もありましたが、そうした例の多くがCRPS(RSD)性の体質、もしくは心理的に負の介入を受けた方たちでした。

当時はEBMの知見を入手することはできても、自らが実践するという意識がなく…。今になって思えば一日の来院者が250人を超える病院でしたので、RCTをデザインする好機だったかなと悔やまれます。

ですので、拘縮の発生率が下がったというのは、あくまでも私の主観ということになります。とは言え、平素より自己内省的、自己批判的な思考プログラムを有する私としましては、認知バイアスとりわけ確証バイアスの程度はさほど強くないと評価しています。おっと、これもまた主観でした…。失礼。

…とは言え、関節拘縮の多くがソフトペイン由来(脳の問題)、すなわち脳におけるシステムエラーに過ぎないという私の考えは、先の実験結果はともかく、医学的に受け入れ難い話だと思います。

なぜなら、関節拘縮の病態については組織学的な研究成果-筋線維の短縮、コラーゲン線維の変化等々-の知見から、ほとんどの医療者が構造的な問題であると認識しているからです。

しかし、分子生物学的な解析も含め、そうした研究論文の多くはマウスやラットの電子顕微鏡の世界の話であって、生身の人間のリアルな臨床像をありのままに捉えた報告ではありません。

もし仮に、実際の患者さんの関節拘縮における軟部組織の分子生物学的な変化をリアルタイムに捉えることのできる動的画像検査が開発されたとしても(ノーベル賞ものでしょうけれど)、そうした組織学的な変化と拘縮の因果関係を証明するためにはさらに厳密なRCTが必要です。

例えば、予期不安を与えない人工的な拘縮(正常人への関節固定によって作られた拘縮)100人、予期不安を与えた上での人工的な関節拘縮100人、実際の骨折症例において予期不安を与えなかった関節拘縮100人、骨折症例で予期不安を与えた関節拘縮100人の各グループ間における組織学的な変化と臨床像の相関性をきちんと精査する必要があります(100人という数字は例えばの話で、医療統計上有意差の得られる人数を考慮した仮の数字)。

場合によっては新版STAIに代表される心理テストの結果でグループ分けした個体群によるRCTも必要かもしれません。

そうした厳密な比較対照試験を行わない限り、「関節拘縮の原因は100%構造的な問題」と断言することはできないと私は考えます。

AKA-博田法→ANT(関節神経学的治療法)→BFI(ブレインフィンガーインターフェース)という治療技術の変遷を重ねた結果、BFI のごときアプローチー複数の関節周囲を同時多発的に触るという従来の常識にはなかった技術ーがCRPS(RSD)に極めて有効であり、痛みのみならず、関節拘縮までをも回復させることが分かっています。

これまでのBFI の臨床データから「CRPS(RSD)をはじめ多くの関節拘縮に従来の伸張運動は不要であり、脳にアプローチすることが一番の近道である」ことが示されているのです。

関節拘縮の病態はその多くがCRPS(RSD)で紹介した「主動作筋と拮抗筋の同時収縮」もしくはそれに準ずる中枢のシステムエラー(筋協調性の完全なる破綻)に過ぎず、多くの関節拘縮は共通した基盤-拘縮を起こしやすい脳-を持っており、その発現レベルの強弱に過ぎないと、私は考えています。

昨今、自閉症スペクトラムという概念が一般的になりつつありますが、これは 重い自閉症からアスペルガー症候群まで、広汎性発達障害を同一ライン上の連続体として捉えた呼称です。関節拘縮もまた同じ概念の下、“関節拘縮スペクトラム”として考えるべきであり、その最たる重症例がCRPS(RSD)性の拘縮だということです。

AKA‐博田法の開発者である博田節夫氏による見解「RAやOAに代表される骨関節疾患の関節拘縮はCRPS(RSD)性の拘縮である」。さらに1994年ベイラー大学のモーズリー博士らによる実験報告「退役軍人の膝OAに対するプラセボ手術と本物の手術において、その術後成績に違いはなかった」。この両者の知見は私論を強烈に後押しするものです。

関節拘縮の中には、可動域訓練における伸張運動の際、自動的にも他動的にも激痛を訴える症例から、まったく痛みを訴えない症例まで、非常に多彩な臨床像を示します。

その理由を考えた時、関節拘縮には大きく分けて2種類があると私は考えています。拘縮の病態が中枢のエラー(おそらくは運動皮質からの信号出力の異常とそれに伴う小脳回路における長期抑圧不全)を引き起こしている運動神経回路に痛み記憶の再生回路がリンクしているもの、リンクしていないもの、この2つのパターンがあるという視点です。

前者では脳内補完による予測制御が強過ぎるため、関節を動かそうとする、あるいは動かされる数百ミリ秒前に痛み記憶の再生回路が作動し、痛みを感じることで関節の伸張運動が妨げられます。伸張運動そのものが痛みの原因ではなく、伸張運動を予測した脳に原因があるということです

一方、後者(痛み記憶がリンクしていない症例)では脳内補完が発動せず、ただ単に運動皮質からのエラー信号だけが抵抗するため、「やたらと固い関節だが本人は痛みを訴えない」という状態になるわけです。

以上の視点が正しいと仮定すれば、リハの現場で患者さんが訴える痛みの多くは、実はハードペインではなく、ソフトペインということになります。

AKA‐博田法や関節モビリゼーション等の関節包内運動に働きかけるテクニックが、なぜリハに有効な技術となり得たのか?その真の理由は「関節包内運動はその情報変化が意識に上らない運動だから」です。すなわち無意識下に処理される情報変化はソフトペインを改善させるということです。

無意識下での情報処理は、脳の神経回路の結び付きを変える効果があるのではないかと私は考えています。

人間の可聴域は20~2万Hzと言われていますが、この域外の音すなわち「耳に聞こえない音」のうち、3.75Hzの超低周波音や10万Hz以上の超高周波音が脳の血流を回復させることが報告されています(オルゴールセラピー/日本オルゴール療法研究所)。これもまさしく無意識下情報処理です。

脳科学者の茂木健一郎氏がテレビで紹介する“映像のアハ体験(アハムービー)”をご存知でしょうか。「今からお見せする映像内の一部が少しずつ変化します。どこか変わったのか探しみてください」という出題が出され、ハワイのビーチが映し出されている映像で、画面左下に見えるビーチパラソルの色が白から赤に徐々に変わっていったとします。このとき多くの人はその変化に気づくことができません。

茂木氏いわく、「たとえその変化に気づけなかったとしても、こうした映像を見ることで脳が活性化される」のだそうです。

この例もまさしく無意識下情報処理の典型であり、脳の活性化とはすなわち神経回路の結びつきの変化だと言えます。

昨今痛みの治療現場で起きている変革-強い刺激を加えるテクニックより、優しいソフトなテクニックが増えている現実-や微弱電流をはじめとする低刺激電気治療、ほとんどの神経生理学的アプローチ(NPA)、PNF、AKA、ANTさらに私が開発したBFI、こうしたものが抱える共通した特徴は、実は“無意識下情報処理”なのです。

茂木氏のアハ映像は“視覚”によって、オルゴールセラピーは“聴覚”によって、そしてほとんどの徒手医学は“触覚&運動覚”によって、無意識下情報処理を促しているに過ぎず、これにより脳の神経回路に変化が起きた結果が理学所見の回復だというのが私の見方です。

この考えに従うならば、AKAの強技術、カイロプラクティックや矯正術の一部に見られる強刺激的なテクニックは脳にとって情報入力過多である可能性が…。

ただし“天才的な身体感覚”を持っている術者がこうした強刺激を行う場合に限り、その手技は脳に許容され得るのかもしれません…(果たしてそうした術者は世界中に何人?)。

BFIにおいては、術者の指10本を患者さんの関節周囲の骨に触れて、その場所がランダムに変化していくという技術なのですが、患者さん自身は何本の指に触れられているのか分かりません。触れられている指の数を正確に知覚することができないのです。このとき「触覚の情報は正確な数字として脳に届けられ、無意識下で処理されているが、その結果を意識に捉えることができないだけ」というのが私の見方です。

 
例えば二点弁別閾-異なる2点の刺激を識別できる最小の距離-の域外(識別不能な近距離2点)に対しても、実は脳の無意識下ではその情報を処理しており、その結果が意識に上らないだけ…、これが弁別閾の本態ではないかと私は想像しています。「脳は分かっているけど、“私”が分からない」だけだと…。

ちなみに脳の神経回路の結びつきを変える方法は無意識下情報処理以外に、その対極とも言えるアプローチがあります。筋肉に強い刺激を加えて痛みを起こさせるやり方です。

トリガーポイントに代表されるようにその多くが筋肉をインターフェースにして、痛み記憶の書き換え効果(脳内の痛み回路に新たな痛み信号を送り込むことで強制的に痛み回路の不活化を促す)を体現しているわけですが、この方法は痛みの情報処理能力が一定レベル以上にある脳に対しては有効ですが、CRPS(RSD)あるいはCRPS(RSD)体質に代表されるようにそうした許容特性のない脳に対しては禁忌となります。


ところで、無意識下情報処理において、昨今非常に興味深い発見がありました。それは人間の瞬きに関するもので、人々が同じ映像を見ているとき、場面が切り替わる際に、皆同じタイミングで一斉に瞬きをすることが分かったのです。どうやら人間は瞬きをすることで、無意識に情報を分節化しており、なおかつそのタイミングが聴衆間(人同士)で同期するらしいのです。

ちなみに自閉症スペクトラムを持つ人では瞬きのタイミングが同期しないことから、人間はコミュニケーションにおいて無意識の共感性、同期性を有しており、コミュニケーション能力に問題を持つ個体ではそれが失われているということが言えるようです。

この瞬きの実験の主目的は、映像を見ているときの脳活動がどうなっているのかを調べることにあったのですが、その結果、瞬きの直後に特定の領域が活動を示すことが分かりました。その領域はデフォルト・モード・ネットワーク略してDMNと呼ばれる特殊な神経回路です。

人間の脳は「何も課題を行っていないとき」に極めて重要な働きをしていることが分かっており、こうした脳の安静時に働く特殊領域(広域神経回路)がDMNなのです。近年、世界中で研究が進められており、慢性痛、認知症、ADHD、発達障害、うつ病、統合失調症等との関連性が取り沙汰されています。ただ、その真の役割については、いまだ解明されておりません。

DMNの活動レベルは外的な処理を行っている(外部に注意を向ける)時に低下し、反対に内的な処理を行っている時に増加します。脳内には注意の神経ネットワークとも言うべき、DMNとは正反対の活動をする回路があり、この両者の神経ネットワークの拮抗的相互作用が、脳の情報処理あるいは意識状態を内的モード、あるいは外的モードに切り替えているのではと推察する研究者がいます。

人間の脳活動の内、意識的な活動に使われるエネルギーは5%、細胞の修復維持に20%程度、残りすべてが無意識下の活動に使われると言われていることから、 私はDMNに対して独自の視点を持っています。

脳が消費するエネルギーの大半は無意識の活動であるという事実から類推されるのは、無意識の領域には我々の想像もつかないほど膨大な情報が格納され、また処理されて続けている可能性であり、であるならば、その無意識と意識のあいだに位置して、情報のやり取りを調節しているのがDMNなのではないかというのが私の見方です。

つまりDMNは意識と無意識の境界にあって、神経回路同志の結びつきをコントロールする言わばネットワークチャネルとも言うべき存在なのではないでしょうか。DMNの正体は意識と無意識の中間に介在する“境界意識”とも言うべき神経回路だと私は考えています。
Dmnmika_2 例えば、ど忘れした芸能人の名前を思い出す瞬間は、懸命に思い出そうとしているときではなく、まったく別のシーン(たとえば何も考えずにトイレで用を足している時など)にふと思い浮かぶことが多いわけですが、その“記憶が蘇る瞬間”というものがDMNが働いた瞬間-意識と無意識の間の調節弁が開いた瞬間-ではないのかと私は考えています。

何かしたわけでもなく込み上げてくる安静時の痛みやしびれも同じメカニズムであり、「考えることを止めない人たちは痛みが取れない」と先述しましたが、こうした方々の心理状態は、常にど忘れした芸能人の名前を思い出そうとして記憶の扉をノックし続けているのと同じ状態と見なすことができるのです。

また電話帳を丸暗記したり、1回聞いただけの曲を丸暗記してしまうようなサヴァン症候群に見られる驚異的な記憶力 は、記憶する能力すなわちインプット(入力)の次元よりはアウトプット(出力)の異常な力を示したものであり、DMNの性能の違いとして説明することができます。前述したように膨大な記憶というものは誰しも同じように入力して無意識下に持っている可能性があるのですが、それを意識に上げる力(出力させる力)があまりに違い過ぎるのです。この能力が強過ぎると、すなわちDMNの性能があまりに偏り過ぎると、社会性が失われるため、一般の人はこうした極端な能力が発動しないようにその扉に鍵がかけられて厳重に閉ざされていると言えます。

さて、私は人間が体感する痛みの多くはソフトペインすなわち脳内補完に過ぎないということを説明し、関節拘縮もまた脳のシステムエラーだと主張してきましたが、実は脳内補完とDMNには何らかの関係があると見ています。

なぜならサムシング・ファインの仕事場とDMNの仕事場が同じ場所であり、両者ともに意識と無意識のあいだの信号を調節しているからです。脳内補完の起点は無意識下にあり、これを情報処理、修正、補完した結果が意識に上ります。私の仮説に従えば、DMNもまた無意識下で発動し、意識に上げる情報をコントロールしています。そう考えることによってはじめて、DMNの研究で報告されている慢性痛、認知症、ADHD、発達障害、うつ病、統合失調症等との関連性がすべて同じ理屈で説明することができるのです。

無意識下で処理された情報が意識に上るメカニズムが“知覚統合”だと仮定するならば、そこを仕事場にするのがDMNだとするならば、ウェーバー・フェヒナーの法則とDMNの活動のあいだには何らかの関係性があるかもしれません。これを示唆する実験、論文等が報告されたら、私論の証左となり得ます…。

先のBFI研究会において、自律神経活動を測定する比較実験を行ったところ、BFIは生体を副交感神経優位にさせることが分かりました(ただし、自律神経バランスが顕著に偏っている生体に対しては交感神経優位か副交感神経優位かに拠らずその偏りを回復させる方向に働きます)。

対照群には「シャム(偽治療)」や「ベッド上に10分寝るだけ」というものが含まれますが、このとき「寝るだけ」の実験結果が予想に反して交感神経優位になっていました。その理由を考えた時、そもそも実験デザインにミスがあることに気づきました。「寝るだけ」の実験はBFIやシャムと同じ遮蔽された空間ではなく、会場内の解放された空間にベッドを設置していたため、実験中の被験者の周囲に常に人の動きがあり、なおかつ教材用のビデオが上映されていました…。

このため、おそらくベッド上の被験者の脳は外的な処理を行っていた可能性があり、それが交感神経優位という結果に繋がったのではと推測しています。 そしてBFIによって副交感神経優位になる理由は、被験者の脳において無意識下情報処理と共に内的な処理が行われていたためではないかと考えています。

広義の“無意識下情報処理”には覚醒時における五感の処理すべてが含まれます。たとえば聴覚は周囲の雑音すべてを処理しており、そのうち必要な情報(音)のみが意識に上るわけですが、私が言うところの“内的な処理”とは、無意識下情報処理の結果に対する取捨選択(意識に上げるべきかどうか)を指します。

DMNは脳が内的な処理をするときに活動し、サムシング・ファインとDMNは同じエリアで仕事をしており、さらに無意識下情報処理は神経回路の結び付きを変化させるという私の考え、そしてBFIが副交感神経優位にさせる事実。

これらから導き出される推考として、「脳は外的処理を行う時、DMNの活動は低下し、同時に交感神経優位になりやすく、反対に内的処理を行う時、DMNの活動は増加し、同時に副交感神経優位になりやすい」ということが言えるかもしれません。

先のBFI研究会の実験で、対照群にはもうひとつあるものが設定されていました。それがミラー療法です。実はこのミラー療法においても副交感神経優位になりやすいという結果が出ていたのです。ということは、ミラー療法においても脳は内的処理を行っている可能性が高いと思われます。もしミラー療法も私が言うところの無意識下情報処理に関わっているとするならば、ソフトペインはもちろんのこと、もしかすると関節拘縮に対しても効果を発揮するのではないか?

実は3か月ほど前のことになりますが、ミラー療法が関節拘縮を改善させる現象を見出しました。

BFIが関節拘縮を改善させることは臨床上、既に立証済みでしたが、このたびミラー療法による有効性が証明されたことで、やがて多くの医療者が「脳と関節拘縮の関係」を認知することになるでしょう。

そして近い将来、「脳と関節拘縮の関係」は成書に記述されると同時にリハビリの概念を根底から変えていくことになると、私は予想しています。

もちろん関節拘縮の全てがミラー療法で回復するかと言えば、そんなことはありません。かと言って、ミラー療法に反応しない拘縮はやはり従来の医学が説明する構造的な要因によるものだと断定するのは早計です。脳の影響を全く受けていない拘縮など存在しないというのが私の考えです。

脳卒中後の痙性麻痺下にある上肢においては、本人が動かそうとしても医療者が動かそうとしても、曲がった肘を伸ばすことはむつかしいわけですが、本人があくびに伴う伸びをしたときは無意識に肘が伸びてしまうことが報告されています。これは意思を伴う運動神経回路とあくびに伴う無意識に行う運動神経回路がまったく違う回路だからです。肘そのものが固まっているわけではないのです。

したがって、多くの関節拘縮が脳由来だという私の視点は、すなわち脳の複雑系に原因があるということを意味しており、そうした複雑極まりない運動神経回路の異常出力を回復させるための介入(アプローチ)には様々な手法があり得るわけで、その中の一つがミラー療法に過ぎないと考えるべきです。

つまり複雑系の世界(脳)を相手にする以上、介入手段との相性が常に存在し、インターフェースの選択や刺激の強弱、速度、加速度といった要素も含め、患者さんの脳にとって最も相性のいい手段を見つけることが肝要だと言えます。

ちなみにミラー療法と相性の良くない脳を持っている患者さんにおいては、どのような背景が考えられるでしょうか?まだはっきりしたことは言えませんが、自閉症スペクトラムにおける自己鏡映像認知の問題が気になっています。今後そのあたりのことも含め、何らかの検証実験を行いたいと考えています。

ミラー療法がCRPS(RSD)に有効だという事例を私が初めて知ったのは、今から5年前のこと、恥ずかしながら「Dr.コトー診療所」という漫画を読んだときのことでした。当時はCRPS(RSD)もついに漫画の中で描かれる時代になったのかと非常に感慨深いものがありましたが、「ミラー療法がCRPS(RSD)に有効ならば、一般的な関節拘縮にも試してみる価値がある」という発想にはすぐに結び付きませんでした。

あれから5年が過ぎ…、難治性の四十肩の拘縮に初めてミラー療法を試したとき、見事なまでに腕が挙がってしまったときは、患者さんといっしょに思わず大声で叫んでしまいました。それほどに衝撃的な光景だったのです。頭の中である程度予想はしていましたが、これほどの変化が現れるとは…!本当に驚きでした…。人間という生き物は視覚優位の霊長類であることを二重の意味で思い知らされました…。

関節拘縮の中にミラー療法が有効であるケースが存在するならば、ラバーハンドイリュージョンも拘縮の治療に応用できるのではないか?という関心も湧いてきます。近いうちにそうした実験を…。

※ラバーハンドイリュージョンについてはこちらのページをご参照ください。

次回のBFI研修会(5月31日大宮ソニックシティ・9階902⇒研修会プログラム)において、BFIとミラー療法を組み合わせた臨床がどういったものかその一部始終をノーカットで上映致します。症例はリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica; PMR)の診断を受けて、右肩は拳上困難、左上肢はほぼ不動の患者さんです。この方の腕がいかにして動くようになるか…、衝撃の映像をとくとご覧あれ。当日を楽しみにしていてください。


ミラー療法の基本原則…痛みを感じない範囲での自動運動(痛みを起こさせると、鏡に映った健側の手足が患肢であるという脳の錯覚が消えてしまう、つまり脳をだませなくなってしまうので絶対に痛みを起こさせない状況で行うことが肝要)

⇒ミラー療法の動画映像はこちら

トップページ


痛みと交絡因子とBFI-科学の視点-Prev                         
Nexxt
痛み記憶の再生理論

             

   ≪三上クリニカルラボ≫       ≪BFI研究会≫           



                       BFI 研究会

Facebookページも宣伝

その他のカテゴリー

100年プロジェクト-「母、激痛再び」の衝撃に想ったこと- | 9/24一般講演会を終えて-参加者の声- | BFI テクニック序論-基本的な考え方および検査等- | BFI 技術研修会のプログラム詳細 | BFI 研究会のホワイトボード | BFI 研究会代表あいさつ-NHKスペシャルが開いた扉の先にあるもの- | BFIの技術-最新版- | CRPS(RSD)-1)痛み・しびれと神経の本当の関係- | CRPS(RSD)-3)そのとき鈴木さんに何がおきたのか?- | CRPS(RSD)-4)鈴木さんが回復した理由- | CRPS(RSD)-基礎知識- | CRPS(RSD)-2)痛み信号の通り道と自律神経(ANS)- | CRPS(RSD)-プロローグ- | EBM(根拠に基づく医療)とは何か? | H29年7月のアップデートおよび比較試験の結果報告 | VASによる治療効果の判定シート | “治療的診断”に潜む論理的錯誤(ロジックエラー) | ①BFI 入門編-脳にアプローチする治療家にとって絶対的不可欠の心構え- | ぎっくり腰の真実-脳の自衛措置- | デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と自律神経の関係を考察する-BFIとシャムの比較試験より- | ニューロフィクス(neuro-fixed)という視点 | フィンガートラクション-その意義について- | プライトン固定セミナー | 体幹プライトンシーネ(元ほねつぎの母が脊椎圧迫骨折???) | 前腕骨骨折における上肢ギプス二重法 | 古今東西あらゆる痛み治療は最終的に“同じ場所”にアプローチしているという見方 | 外傷の痛み(ハードペイン)を再考する | 小脳へのアクセス-なぜ“関節”なのか?- | 役割分担-臨床研究と基礎研究とランダム化比較試験(RCT)- | 椎間板のパラダイムシフト(前編) | 椎間板のパラダイムシフト(後編) | 椎間板ヘルニア-①画像診断の矛盾- | 椎間板ヘルニア-②ヘルニアは脊椎を守る防御反応 | 椎間板ヘルニア-③末梢神経の圧迫≠痛み- | 椎間板ヘルニア-④神経の変性≠痛み(その1)- | 椎間板ヘルニア-⑤神経の変性≠痛み(その2)- | 椎間板ヘルニア-⑥神経の変性≠痛み(その3)- | 椎間板ヘルニア-⑦神経の変性≠痛み(その4)- | 椎間板ヘルニア-⑧神経の変性≠痛み(その5)- | 椎間板ヘルニア-⑨髄核の脱出≠圧迫 | 椎間板ヘルニア-⑩物理的な圧迫≠炎症の発生- | 椎間板ヘルニア-⑪椎間板の変性≠痛み(その1)- | 椎間板ヘルニアの真実-医学史に残る巨大な錯誤- | 母指3次元固定法(母指球安定型プライトン) | 無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させり理由-DMNとミラー療法- | 無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させる理由①-脳内補完とソフトペイン- | 疼痛概念のパラダイムシフト(前編)-AKA-博田法➡関節拘縮➡ANT➡シャム➡脳- | 疼痛概念のパラダイムシフト(後編)-セルアセンブリ➡脳内補完➡ソフトペイン- | 痛みと交絡因子とBFI-科学の視点- | 痛みの原因論の二極化(肉体?or 脳?)について一番分かりやすい説明-ソフト論、ハード論とは何か?- | 痛みの成因1)脳と心身環境因子 | 痛みの成因2)脳と内的要因 | 痛みの成因3)症状は生体の弱点に | 痛みの成因4)環境病という視点 | 痛みの成因5)五感力と食生活 | 痛みの成因6)カウンセリングの意義 | 痛みの成因7)ストレス説を斬る!-過去を封印して生きるということ- | 痛みの成因8)ストレス説を斬る!-ストレス≠痛み- | 痛みの成因9)ストレス説の皮相性を斬る!-脊柱管狭窄症と“気づき”の道程- | 痛み記憶の再生理論-セル・アセンブリのフェーズ・シーケンス- | 皮膚回旋誘導テクニック | 私の原点 | 脳疲労とは何か? | 脳膚相関-脳と皮膚の関係-を考える | 腓腹筋ラッピングシーネ | 腰痛-①腰痛治療の現状- | 腰痛-②痛みの科学的研究- | 腰痛-③整形外科の歴史と慢性痛- | 腰痛-④画像診断が意味するもの- | 腰痛-⑤腰痛の85%は原因不明- | 膝関節における前面窓式プライトン固定 | 自律神経測定による“治療効果の見える化”と代替報酬 | 触覚同期ミラーセラピー | 足底プライトンシーネ(ほねつぎの妻が骨折!) | 足関節捻挫における f-(ファンクショナル)プライトン固定 | 関節7つの精密機能-1)応力を分散させる免震機能(関節包内運動)- | 関節7つの精密機能-2)振動を吸収する制震機能(脳を守る骨格ダンパー)- | 関節7つの精密機能-3)衝撃をブロックする断震機能(関節内圧変動システム)- | 関節7つの精密機能-4)関節軟骨の神秘(“知的衝撃吸収”機能) | 関節7つの精密機能-5)関節軟骨の神秘(驚異の摩擦係数) | 関節7つの精密機能-6)潤滑オイルの自動交換システム(滑膜B型細胞の“受容分泌吸収”機能) | 関節7つの精密機能-7)関節受容器によるフィードフォワード制御 | 関節反射ショック理論 | 4スタンス理論と関節神経学の融合-4スタンス×8理論-