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ぎっくり腰の真実-脳の自衛措置-

2015/09/03

ぎっくり腰の真実(原因)-脳にとっての緊急避難措置-

key words  ぎっくり腰 原因 治療 小脳 長期抑圧 最適化 巡回セールスマン問題(TSP) 量子コンピュータ 
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2015年7月にNHKが放送した番組「NHKスペシャル“腰痛・治療革命”」の反響は凄まじく、今(同年9月)なお週刊誌や健康雑誌の誌面を賑わせています。

私の診察室でも同様で、「腰痛の原因が脳にあったなんて本当にびっくりしました」と興奮気味に語る患者さんを前にして、「あのぅ…、ここでそういう話を何度も…」と内心つぶやきながら苦笑…。coldsweats01

私は痛みの概念に新しい分類(ソフトペイン・ハードペイン・ハイブリッドペイン)を提起しつつ、運動器の臨床で最も多いのはソフトペインであるという説を唱えています。ソフトペインとは脳のシステムエラー(誤作動)による痛みです。その根拠については「無意識下情報処理が痛みや関節拘縮を改善させる理由」で解説しています。

当ブログにあっては全国ネットユーザ-、とくに医療関係者の方々から多くの反響を頂いており、そうした皆さまの励ましが私の支えになっています。ですが、目の前に座る患者さんは理解に難色を示す方が多く(当然と言えば当然ですが…)。

ところが先ほどのケースのようにテレビが伝えると、あっさり受容されます。もっとも、私自身が患者だとしても、やはり似たような顛末であろうと思われ…、あらためて人間という生き物は確証バイアスの支配下にあることを実感させられます。

NHKスペシャルでは最初に急性腰痛を除外した上で、慢性腰痛に限り「痛みの原因は脳にある」すなわちソフトペインだという論旨を展開していましたが、そもそも私の関心が脳に向かう最初のきっかけは急性腰痛、とりわけ“ぎっくり腰”でした。

ぎっくり腰と聞くと、物理的な要因で起こるハードペイン(肉体の障害を知らせる痛み)を想起される方がほとんどだと思われます。中腰で重たいものを持ったりして、腰に大きな負担がかかって発症するイメージが強いですし、医学的にもそのように説明されています。

しかし、それは過去の話でして…、私が整形外科に勤め始めた頃(20年前)は、たしかにビール瓶の箱を持ち上げてというような、分かりやすい症例が多かったと記憶しています。

ところが、ここ数年間はそうしたケースに遭遇することはかなり少なくなっています。その多くが軽作業中に…、床の上の物を拾おうとして…、くしゃみあるいは咳をして…、朝起きたら腰の重たさを感じて出社したら動けなくなっていた…等々、物理的に損傷を来たすような機転があったとは言えないものばかり。

私自身、これまで3回ほどぎっくり腰を経験していますが、そのいずれにおいても強く捻ったわけでもなく、重い物を担いだわけでもなく、何気ない動作の中で突然激痛に見舞われた…というものでした。

おそらくは、現代人の多くに「重い物を持ち上げる際ぎっくり腰に注意」という潜行意識が備わっているため、重量物を持ち上げるような場面では用心して作業に当たる方がほとんどだと思われます。そのため昔(昭和の時代)に比べると、そういう場面での発症は激減していると言えます。

さらに体幹トレ、4スタンス理論、甲野善紀氏の身体術等々に代表されるように、介護からスポーツの現場に至るまで身体操作への関心の高まりが背景にあり、同時に近年のイノベーションによる労働環境の変化-重機やロボットをはじめ“人力”に頼らないシステムの導入-が、以前よりも腰部への構造的ダメージを少なくしているというのが私の見方です。

したがって近年見られるぎっくり腰の特徴としましては、注意喚起が及ばない場面で、かつ不用意な動きの中での発症が多く、なかには動作、運動とはまったく関係ない状況で発症するケースも少なくありません。「ソファで横になってテレビを見ていて、起き上がろうとしたら激痛で動けなくなっていた」というのがその典型例です。

このように従来の概念-物理的な負荷による構造的な損傷-では説明のつかないぎっくり腰に対して、どのような解釈が成立し得るのか?そんな疑問を出発点にして、私は脳の世界へ足を踏み入れることになったのです。

そして2012年「痛み記憶の再生理論」を発表し、その中で“ぎっくり腰のメカニズム”を明かしました。その詳細については拙論をご覧いただくとして、ここでは自説を補完し得る分かりやすい例を紹介いたします。

ちょうど先日非常に興味深い症例に遭遇しました(当然ながら個人情報の観点により、氏名・性別・年齢・職業等々は架空の設定に再構成してお伝えします)。

40代後半の小林さんは千葉県内で数軒のカフェを経営する元ラガーマンで、体力自慢の方です。当方との付き合いは数年ほど前、四十肩で来院したのを機に、年に数回ほど診させていただいています。ふだんは近所の整体に通っていらっしゃるのですが、症状がきつくなったときだけ来られる患者さんです。

8月下旬、その小林さんから久しぶりの連絡があり、「昨日腰をやっちゃいました…。いつものところでしてもらったんですけど…。これからそちらに伺いたいのですが…」と。その数時間後、当院の玄関に入ってきたのはご本人ではなく、奥様。「すみません。車から降りられませ~ん…」と。急いで外に出ると、車中に横たわったまま苦痛に顔をゆがめる小林さん。

ラグビーで鍛えた筋肉隆々の身体を奥さまが支えることはさすがに困難。私の体重の倍近くある小林さんを運ぶのは容易なことではありませんでしたが、数十分をかけてなんとか診察ベッドに。そして、いざ施術。

すると、反応があまりにも悪く、「これは…、相当きてる…」と感じた私はいったん施術の手を止め、少しだけカウンセリングを。

「随分と脳を酷使されたようですね。脳の一部、神経回路のオーバーヒートが起きてるんですけど。何か…、めちゃくちゃ気を使うようなこと…、ありました?」

「いやあ、とくに…」

「この前、奥様から聞いたんですけど、都内にも出店されたとか…」

「ええ、まあ…」

「で、どうですか?滑り出しは順調ですか…」

「いやあ、まあいろいろあったんですけど、思ったより客足は伸びてるんで…」

「そうですか、良かったですね。でも、いろいろあった?」

「まあ、いつものことで…。新規に雇ったバイトが急に来なくなったり、ファサードの見直しとか…、毎度のことですよ」

「そう言えば、7月の納税は大丈夫でした?」

「あっ、そう…、ええ、いやあ、参りましたよ。額が思っていたより大きくて…。それ用にプールしておいたんですけど全然足りなくて…。あっちこっち走り回って…。最後はなんとか工面できましたけど。ホントたいへんでした…。ゴホ(咳払い)。ウオオオ(激痛に喘ぐ)。先生、話はいいから、早く治療を…。ううっ、痛い…」

私としては、だいたい、これで謎が解けました。

実は小林さんの奥様も通院されていて、1週間前に来院された際「ご主人、元気にしてます?」と何気なく聞いた際、「相変わらず仕事ばっかりですよ…。この前も納税がたいへんだとかなんとか言っちゃって、娘が楽しみにしていた海水浴ドタキャンしたんですよ。っとに…」と仰っていたのを思い出し…。さりげなく聞いてみた結果がご覧の通りです。

思った通りお金の問題で神経をすり減らしていた可能性が浮かび上がったわけです。お店の経営のことも含め、いつもポーカーフェースでクールな雰囲気を漂わせ、ちょっとやそっとのことでは弱音や動揺を口にするような方ではありません。

そんな小林さんが素直に「たいへんだった」と口にしたのですから、本当にただならぬ事態だったのだろうと憶断されるわけです。正直、私も“あの小林さん”がすんなり心情を吐露されるとは思ってもみませんでした。ただし、後述しますが、本人の内実はもっと複雑であることが後になって判明します…。

私が唱える「痛み記憶の再生理論」は簡単に言うと、感情プログラム(感情を制御する神経回路の働き)に何らかの歪みが生じ、そこに思考プログラム(思考を制御する神経回路)の過活動が加わると、脳全体の神経回路バランスに大きな偏りが生じ、これが結果的に小脳回路の異常活動を引き起こすと同時に痛みの記憶回路が賦活されるというものです。

このとき、小脳回路の一部(腰下肢を制御するプログラム)の強制シャットダウンがすなわち“ぎっくり腰”なのです。EBMにより「急性腰痛の9割が1カ月以内に自然治癒する」と報告されていますが、まさしく小脳プログラムの局所シャットダウンと、それに続く再起動だと考えれば説明がつくというのが私の見方です。

映画「ターミネーター3」の中で、シュワちゃん演じる人型ロボット(ターミネーター)は主人公の人間を守るようプログラミングされているのですが、ストーリー後半で敵から正反対のプログラム(その人間を殺せという指令)をインストールされてしまいます。すると、それまで自分が守っていた主人公を殺そうとして襲いかかるのです。

ところが「僕を守るのがお前の任務のはずだ。それを思い出せ!自分と戦え!」と主人公から絶叫されると、ターミネーターのコンピュータ内で新旧プログラムが交互に顔を出し、「殺せ!」…、「守れ!」…、「殺せ!」…、「守れ!」…、というせめぎ合い、葛藤が起こります。こうして混乱に陥ったターミネーターはなぜか目の前の車を叩きまくり、ついには自身内部のコンピュータがシャットダウンし、動作を停止させてしまうのです。これと同じことが人間に起きた現象が、まさしくぎっくり腰だというのが自説の核心です。

蛇足になりますが、この映画は技術的特異点(※)後の未来が描かれており、なかでもロボット自身の感情およびロボットと人間の間にシンクロし得る感情が裏テーゼになっているのですが、無機質なロボットに見え隠れする情動の機微を表現していたシュワちゃんの演技は痛快でした…。

(※)…人間の知能をはるかに超えてしまった人工知能(AI)が人類に代わって科学技術を飛躍的に進化させ始める時期を指す言葉。AI開発の世界的権威カーツワイル氏はその時期を30年後と予測している。これがいわゆる“2045年問題”。

シュワちゃんの話はさておき、ターミネーターのコンピュータ内に起きた混乱を人間に当てはめると、「深層心理に潜む感情のねじれ」と表現することができます。動物実験において、交感神経を刺激すると頻脈になり、副交感神経を刺激すると遅脈が発生しますが、両方を同時に刺激すると不整脈が起こると言われています。人間が抱える感情のねじれも、ときに不整脈となり、ときに胃の痛みとなり、ときに運動器の痛みとなって現れるというのが私論の骨格なのです。

感情のねじれは大なり小なり現代人の多くが抱えていると推察され、これのみが痛みを生み出すわけではないと私は考えます。水面下に抱える感情のねじれが許容範囲を超えると同時に、そこに意識活動の亢進(思考回路の過活動)が加わって初めて脳代謝バランスの顕著な乱れが顕在化するのです。

このとき脳内の複数箇所に様々な影響が現れ得ます。先のNHKスペシャルで紹介されたDLPFCの体積減少はその一部に過ぎず(私には枝葉末節の問題と映りましたが)、小脳はもちろんのこと実際はデフォルト・モード・ネットワークをはじめ前頭前野、帯状回、島皮質、扁桃体、側座核など諸々の領域に代謝レベルを含めた何らかの変化が現れてしかるべきメカニズムが潜在していると考えられます。

なかでもそうした変化を運動器の問題に転化させ得る直截的窓口となってしまうのが小脳だと言えます。

その理由を説明するためには小脳回路の詳細をお話しする必要があるのですが、これについては伊藤正男氏の書籍等を参照していただければと思います。ここではごく簡単に分かりやすくお伝えいたします。

まず抑えるべきは、大脳と小脳では神経回路のプログラミング手法(学習機能)が正反対だという点です。大脳では特定の回路に流れる信号が多ければ多いほどその回路は強化され、学習が進んでいきます(長期増強)。ところが、小脳においては誤った信号を検出し、その信号をブロックすることで学習が進むのです(長期抑圧)。

つまり小脳はエラー信号の監視役を担いつつ、正しい信号のみを通すという自己選択式プログラミングを行っているということです。まずこの違いを知ることが第一歩となります。

一般に小脳は運動の制御というイメージが強いと思われますが、最近の研究では認識、記憶、感情、知覚の統合など高次脳機能全般に関わっていることが分かっています。ただ、その詳細については未解明の領域が多く残されているようです。

このように多くの顔を持つ小脳の働きについて、よりシンプルな解釈を試みると、『小脳は大脳にあるデータファイルを圧縮処理して保存する役割を担っているのではないか』と私は見ています(保存先は前庭核を含め、複数箇所が想定され得ます)。

小脳が行うデータ圧縮とは、簡単に言えば、情報伝達の効率化を図るために、個別の神経回路をコンパクトにすること(最適化)を意味します。分かりやすいイメージとしては「」の中間部分「」を省いて、「」にしてしまう感じ…。

もう少し具体的に説明します。小脳は個別の運動プログラムを生成するのみならず、大脳の思考プログラムをも圧縮コピーする可能性が指摘されています。
Qqqq
たとえば、小林さんを例に挙げると、妻の機嫌が悪くて夕食のおかずが一品少ないとき、「文句を言うか言うまいか→言えば喧嘩になる→ソフトに言えば問題ない→やはり気まづくなる→言わない」という思考回路があったとします。

これと同じ状況が何度か繰り返され、その都度相手の反応を学習することで思考回路の圧縮と最適化が行われます。その結果「文句を言うか言うまいか()→言わない()」というプログラムに書き換えられます。途中のあれこれ考える手間が省かれるのです。これを実行する圧縮ソフトが小脳の中にあり、これにより次回以降、同じ状況下におかれても大脳の思考回路を使うことなく、小脳によって作成した圧縮ファイルを使うことで、すなわち無意識下の処理に任せることで、大脳の省エネを実現できるというわけです。

すると、小林さんの脳は「いつもよりおかずが少なくても何も言わない」という思考プログラムが無意識下に保存され 無意識下に実行される状態となります。

これと同じ理屈で、歩く、立つ、座るといった個別の運動プログラムもそれぞれが最適化された圧縮ファイルとなって保存されており、これらを実行することで無意識に身体を動かすことができるのです。

最適化される前の、大脳の神経回路を下図に示します(ものすごく単純化してあります。○が神経細胞)。

Kairo1
ある情報を表現する回路において、信号の通り道が神経細胞に始まって全てを経由して神経細胞まで流れるとすると、この回路内の信号の流れ方は何十通りもあることになります。このとき「すべての枝道を逆流することなく1回のみ通ってBまで行く方法」が最も効率のいい流れだとすると、どのような流れ方が考えられますか?

要は一筆書きの問題です。下の答えを見ずに、少しだけ考えてみてください。尚、神経細胞の重複はOKとします。



下図が答えの一例です(正解はこれ以外にもあります)。
Kairo2
大脳で神経回路が強化される仕組みは前述したとおり、長期増強がメインですから、効率性云々よりもまずは枝道を作ることが優先されます。流れ方がどうのという前に、とにかくAからBに辿り着く回路を作ることが大事なのです。ですから、回路によっては効率的でないものや遠回りしているものも含まれるわけです。で、そうした効率性の悪い回路に対して、上図のように最適ルートを作成しているのが、まさしく小脳の仕事ではないのかというのが私の見方です。

小脳は前述したとおり、長期抑圧-エラー信号をブロックして正しい信号だけを通す-というプログラミングを行っていますので、これこそが回路の最適化であろうと考えられるわけです。

ただ、上図はあまりにも単純化が過ぎるので、もう少し複雑なモデルを考えてみたいと思います。試しに上図の神経細胞の数を30個に増やしてみましょう。すると先ほどの一筆書きという概念ではとても想像が追いつきませんので、これをセールスマンに置き換えて考えてみます。

たとえば、あるセールスマンが地方の30都市すべてを訪れるとします。このときの最短ルートはどうなるか?どのような順番に訪れていくと、一番効率がいいか?上図と違って今度は枝道の長さという要素が追加されますので、都市間の距離を計算する必要が出てくるわけですが…。

どうでしょう?問題を俯瞰するイメージは掴めたとしても、実際に解く作業は一筆書きよりかえってむつかしくなり…、おそらく途方もない計算を余儀なくされることが想像できると思います。では、具体的にどれほどむつかしい計算となるのか?日本が世界に誇るスーパーコンピュータ「京」に、この計算をしてもらいましょう。「京(けい)」は1秒間に1京回計算する能力を持っています。

すると、予想だにしない結果が…。この「京」を持ってしても、この問題を解くためには、なんと!1000万年以上かかってしまうことが分かっています(15都市までは瞬時に解けるがそれ以上では都市の数が一つ増すごとに計算時間が爆発的に増長する)。それほどにも“この計算”はむつかしいのです。これが情報数理の世界で有名な巡回セールスマン問題(※)です。実は従来のコンピュータにとっては、こうした組み合わせ最適化問題の計算が一番苦手だと言われています。

(※)…計算複雑性理論においてNP困難問題(解に導くアルゴリズムは分かっていても実際の計算量があまりに膨大なため何万年もかかってしまう問題)の代表例(詳しくはこちら)。

しかし、こうした難題を瞬時に解いてしまう可能性を秘めた、まったく新しいタイプのコンピュータが近年開発されています。それが“量子コンピュータ”です。これは従来のコンピュータとは根本的に異なる動作機序-量子力学に基づく情報処理-をすることで、先の巡回セールスマン問題をも簡単に解いてしまう能力を秘めていると言われています《現在のスペックではまだ実現できないが、将来的に量子ビットを増やすことでそうしたレベルに達すると目されている(⇒詳しくはこちら)》。

さて、ここでもう一度脳の働きに戻ります。人間の大脳には140億個の神経細胞があり、小脳にはそれをはるかに上回る1000億近い神経細胞があって、これらが脳全体にクモの巣上に張り巡らされて無数の回路を形成しています(1個の神経細胞から伸びる枝は数千~一万であり、想像を絶する超複雑な回路)。

「大脳には最適化される前の効率の悪い回路が相当数含まれており、これらに対しては小脳が関与することで最適化される…」という私見を先述したわけですが、神経回路の最適化を巡回セールスマン問題として考えてみた場合、たった30個の神経細胞でさえ途方もない計算になってしまうのに、これが数万、数十万、数百万という単位の実際の神経回路にあっては気が遠くなるような時間がかかってしまいます。

巡回セールスマン問題と同様のアルゴリズムを脳の神経回路(より正しくは遺伝子)が採用しているかどうかは私には分かりませんが、もっと平易なアルゴリズムであったとしても、いかんせん“数”そのものがあまりに膨大ですから、もし本当に神経回路の最適化が行われているとするならば、量子コンピュータの如き機能がなければ、処理速度の面からも説明がつかないのでは…?

そのような演算処理を本当に小脳が担っているとするならば、小脳はまさしく量子コンピュータに近い動作機序を持っていると言えるのではないか…、というのが私の考えなのです。

ちなみにミツバチは複数の花のあいだを最短ルートで飛翔していることが知られており、イギリスの研究者が行った実験によって「ミツバチは巡回セールスマン問題をごく短時間で解いている」ことが証明されたそうです。もしミツバチの脳が量子コンピュータのごとき能力を持っているとするならば人間が持っていても不思議ではない…?

またデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)に代表されるように脳内の離れた領域が同期する現象が知られていますが、こうした脳内同期という現象も量子論における“量子もつれ”(量子同士が離れた状態で影響し合う特殊な性質)で説明できると主張する研究者がいます。今後の脳科学は量子論によって新たなステージに入る可能性があります。

小脳が量子コンピュータかどうかはさておき、大脳における最適化される以前の“できたてホヤホヤの回路”の中には、小脳にとって非常に迷惑な、ものすごくエネルギーを消耗させられる粗悪な回路があります。これこそが、私が言うところの感情のねじれを抱えた思考回路なのです。

こうした極めて歪(いびつ)な信号が次から次へと小脳へ流れ込んでくると、これはもう小脳にとっては己のスペックをはるかに超えた耐え難い状況…。パソコンに譬えると、ネット閲覧のページ画面を次々に何重にも開いていくと、やがてメモリ不足となって動作が重くなってしまう状況と同じ…。パソコンであればRAM(実装メモリ)を補填することで解消しますが、もちろん小脳にRAMはありません。

小脳における長期抑圧というプログラミングは何度も申し上げている通り「エラー信号をブロックすることで最適化を図っている」わけですから、大量のエラー信号が津波のように押し寄せてくると、オーバーヒート状態に…。下(左側)がそうした重労働に耐えて悪戦奮闘中の小脳を捉えた画像です。Shounouu5_2〔NHK「クローズアップ現代」心と体を救うトラウマ治療最前線より映像を一部加工〕

こうした状況が限界に達したとき、小脳はどうやって己を守ればいいのか?

『いびつな過剰信号の侵入をどうすれば阻止できるのか?いびつな信号の発生自体を止めることができれば、それが最も確実な方法と言えるが…。粗悪な思考回路を止めるにはどうしたらいい?考えることを止めさせるためにはどんな方法が…?

そうだ!過去の記憶を利用して-脳内補完を使って-とんでもない激痛を発生させれば思考回路の活動が止まるのではないか…、と同時に、小脳が最もエネルギーを費やす大容量ファイル(運動プログラム)を停止に追い込むことができれば、疲労回復の時間を稼ぐことができる。まさしく一石二鳥とはこのこと…。ならば小脳が制御する圧縮ファイルの中で最大容量の“腰下肢プログラム”を強制シャットダウンさせてしまおう!これが再起動するまで少なくとも数日かかるから、その間に消耗し切ったエネルギーを回復させることができる!』

というのが、私が考えるぎっくり腰のメカニズムというわけです。脳内補完についてはこちらのページ で詳しく解説していますが、錯覚の研究領域でよく知られた現象で、五感の統合処理において実際には存在しない感覚を脳が勝手に創り出す機能です。そのメカニズムは不明ですが、仮にスパースモデリング(詳しくはこちら)によって説明されるとしたら、ソフトペインは脳内のスパースモデリングエラーという解釈が成り立つかもしれません。

脳内補完は過去の体験・記憶を利用し、予測制御的に実行されます。たとえば、錯聴における連続聴効果(人の音声において、そのところどころに無音の空白箇所を作ったデモテープを聞くと、当然ぶつ切れ状態の話が聞こえるわけだが、その空白箇所に雑音を挿入したものを聞くと、違和感なく連続した音声として聞こえる)は、脳が会話の流れを予測することで、実際には聞こえていない音を補完する現象です。

「アサ○ボウシテ○コクシタ」の○の部分にザアーという雑音を挿入すると、なめらかな音声として「朝寝坊して遅刻した」と聞こえます。賑やかな雑踏の中でも人の声を聞き分けるために脳が行う言わば予測制御だと言えます。

町内会の会合においてパイプ椅子に座っている状況で、盆踊りへの参加問題をやり玉に挙げられて周囲から色々言われてしまったご婦人が、その最中に腰痛が強くなってしまったことがありました。すると、その一件以来「椅子に座ると腰が痛くなる」という“椅子腰痛”になってしまった症例があります。

椅子に座った状況に対して、脳が過去の体験・記憶に基づく予測制御すなわち脳内補完を実行することでソフトペインを生み出すようになってしまったというのが私の考えです。

作家の中にも同様の腰痛になった人がおり、その体験を自ら著した「椅子がこわい」(夏木静子著)は痛みを診る医療者にとって有名な書籍となっています。脳が出力するソフトペインというものが、場合によっては人生を破壊するほどの力を持ち得ることを雄弁に物語る名著です。

このように無意識下に実行されてしまう予測制御…。実はこれにも小脳が深く関わっていることが分かっています。くすぐったいという感覚は小脳の予測と実際に触れられた際の時間差だということが英国の実験で示されており、他にも小脳が予測制御に関わっていることを裏づける実験が複数あります(私論「関節受容器によるフィードフォワード制御」においても、小脳による予測制御を解説)。

予測制御に小脳が関わっている…、ならば予測制御によって実行される脳内補完にも小脳が関与している可能性が高く、ということはソフトペインにも小脳が…、というのが私の考えであり、事実腰痛患者の脳内において小脳の過活動が見られることが分かっています(下図)。
Aa01              〔TBS系列・健康カプセル「ゲンキの時間」より〕

fMRIやNIRS等の脳機能画像は代謝レベル(血流や酸素消費など)を描出しているケースが多く、ニューロン(神経細胞)活動そのものを表しているわけではありません。ですので画像上の“過活動”イコール“ニューロン活動の一方的な亢進”と言い切れるかどうか分かりませんが、エネルギー消費の観点からは画像通りの解釈でいいと思われます。

すなわち小脳のエネルギー消費が激しい状態は、前述したとおり大脳からのいびつな信号が大量に押し寄せている状態だと考えられ、こうした状況が続けば相応のダメージは避けられない…。やがて小脳は疲労困憊-その実態はニューロン活動の不調和・失調・乱れの類-となって、ついには最適化そのものにエラーが生じるように…。

痛み体験の強弱あるいは有無に関わらず、もし小脳がこうした“長期抑圧不全”とも言うべき状態に陥ってしまったら、そのタイミングで何か新しいスポーツや運動療法にチャレンジしても、うまくいくことはないでしょう。新しい運動プログラムを作ることができないからです。

さらに既存のファイル実行にも支障を来たすようになれば、個別の運動プログラムのいずれかに問題が発生し、けがをしやすい状態となります。たとえば“歩行ファイル”の実行にエラーが発生すれば、歩幅が狭くなったり、階段を踏み外したり、つまづきやすくなったり…。高齢者であれば転倒の危険が増すことになります。

アスリートであれば、けがのみならずテニス肘、野球肘、野球肩に代表されるスポーツ障害に繋がりやすいと言えます(痛み記憶のリンクがない場合に限りパフォーマンスの劣化すなわちスランプになり、場合によってはイップスを引き起こします)。

ちなみにメダルの有力候補がオリンピック本番で力を発揮できないケースは、やる気スイッチの入り方の問題(強く入り過ぎていることが多い)に端を発し、思考・感情回路にいびつな信号が混じることで小脳に負担をかけてしまっている状況が想定されます。したがってメンタルトレーニングの核心は“小脳解放!”にあると言えます。

アスリートの問題はさておき、小脳による最適化が不完全になっている-小脳が疲れ切っている-そのタイミングで、かつてないほどの大量かつ不整な、超いびつな信号がどっと押し寄せてきたら、どうなるか?もはや小脳に最適化を実行する体力は残されておらず、回路の扉を閉ざすしかない…。シャッターを一気に下ろすしかない…。シャッターをダウンさせよう、シャッターダウン…、で、シャットダウン…(すみません。つまらないダジャレを。これを書いている私自身少し疲れてきたので、ちょこっとここでコーヒーブレイク)

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〔写真は軽井沢「星のや」にて⇒私の軽井沢連載エッセイ「避暑地の猫」〕

小脳内部においては、脳内補完に関わる部署と運動ファイルを実行する部署は別々の場所にあると想定されます。脳内補完に関わる領域を仮に“補完帯”と呼び、運動ファイルのほうを“運動帯”とすると、補完帯での異常活動(画像上は過活動)は過剰な予測制御を引き起こし、脳内補完によるソフトペインを生み出します(慢性腰痛をはじめ種々運動器の痛み)。

私は小脳の血流に関して準閉鎖的な環流システムがあると推断しており、過剰な脳内補完を実行している小脳内部では補完帯のエリアに血流が集中するため、小脳内の別のエリアの血流が相対的に低下することになると考えています。

このとき血流低下エリアが運動帯であった場合、運動ファイルのエラーが…。つまり筋協調性の乱れと共にソフトペインが現れることになります(運動時痛)。安静時痛に関してはDMNが関与する別のシステムが介在します(これについてはまた別の機会に)。

こうした状態がさらに極まって運動帯への血流が極限まで落ち込んだその瞬間こそが、運動プログラムのシャットダウンであろうというのが私の見方なのです。運動回路への一時的な血流不全(必ず回復する可逆的な反応)は場合によってはぎっくり腰となり、他方、運動回路の破壊を伴う完全な血流停止は麻痺(脳卒中)に…。

可逆的な一過性の血流不全に伴うニューロン活動の“時限停滞”が運動プログラムのシャットダウンであろうというのが私の考えです。

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運動器の臨床において、患者さんが訴える体性深部痛の多くはソフトペインであり、先述したとおり脳内の複数箇所に代謝レベル等の変化が想定されるのですが、小脳の働きだけにフォーカスした場合、「小脳内部の運動帯の血流低下と補完帯の血流上昇」が運動時ソフトペインであり、こうした小脳内の血流バランスの不均衡が極限に達したものがぎっくり腰に代表される超ウルトラソフトペインだというのが自説「痛み記憶の再生理論」の骨子だと言えます。

上記イメージ図で言えば、運動覚へのアプローチ(マッサージ・整体・カイロ・PNF・AKA・BFI等々や運動療法・マッケンジー・水泳・ヨガ・各種エクササイズ)によって運動帯の血流が上昇すると、小脳内環流システムの血流勾配-運動帯と補完帯がシーソーの関係にあるため一方が増えれば一方が減る-によって、補完帯の血流が低下します…。結果ソフトペインが消えます(脳機能画像上は小脳の鎮静化として描出される)。

これこそが世界中に存在する徒手医学が痛みを改善させる共通のメカニズムであろうというのが私の見方です。運動覚へのアプローチには個人差(脳との相性)があるため、簡単な体操やウォーキングがたまたま自分の脳にフィットすれば結果がついてくるということです。要は運動帯の血流を上げればいいのですから…。

ただし安静時痛に関しては、筋協調性が良くなった-運動帯の血流が回復したであろう-にも拘らず、訴えが不変であるケースが少なくないことから、まったく別のシステムが想定されます(先述したDMNの問題)。またCRPS(RSD)に代表されるように感覚情報の処理システムにエラーがある脳に対しては、徹底して愛護的なアプローチでないと小脳にアクセスすることはできません(したがってBFI のごとき極微の刺激がファーストチョイス)。


さて、その後の小林さんはどうなったでしょうか?

幸い(と言いましてもBFIの臨床データと照合すれば成るべくして…)施術後は自力で立つことができるようになり、歩行も可能になりました。

「…これで大丈夫です。今晩はゆっくりお休み下さい」とお見送りしたのですが、翌日再び連絡があり、再受診。

すると、さすがに昨日とは違い、独りで車から降りて歩いて入ってこられたのですが、その痛々しい動作からはまだ相当に辛い状況であることが推察され、本人の表情も暗いまま…。

「昨夜はどうでした?」

「おかげさまでぐっすり眠れました。でも…、朝起きたら、また…」

「動けなくなっていたんですね。ん、なるほど…。今回は人生2度目のぎっくり腰ということでしたが、1回目のときと比べて?」

「今回のほうが痛いです…」

「昨日よりは少し動けるみたいですけど、痛みそのものはあまり変わっていない?」

「ええ、瞬間的に感じる激痛は変わらないです」

「昨日もちらっと説明しましたが、ぎっくり腰の原因はネガティブ感情もしくはやる気スイッチの押し過ぎによる脳のオーバーヒート…。昨日治療から帰ったあとパソコン仕事とかはしてないですよね」

「ちょっと、やんないといけないことがあって、少しだけ…」

「そっ、そうでしたか…。ちなみに、なんですけど昨晩は夢とかって、見ました?」

「仕事の夢を見ました。内装のほうでやらないといけないことがあって…。夢の中でそれを必死にやってましたね(苦笑)」

「やっぱり…。新しいお店を出したばかりで、いろいろ忙しいのは分かるんですけど、とにかくいったん仕事から完全に離れないと、脳のバランスが…」

「先生、じっと横になっている分には楽なんですけど、とにかく立てないのが辛いんです。なんとか立てるようにしてもらえませんか…、でないとお店に顔を出せないもんで…」

「…(いや、だから…)」

このように、私が“脳の話”をすると、多くの方が見事なまでにスル-されます(苦笑)。話が噛み合わない状況に対しては私自身…、既に脳内に最適化された思考プログラムを持っていますので、そんな患者さんを前にして、私もスル-します(笑)。

ですので、「分かりました。なんとかしましょう」と言って、黙って施術に…。

ぎっくり腰は小脳が実行する「腰下肢制御ファイル」が停止状態なわけですが、これは言い換えると「出荷前の状態に初期化されている状態」と同じです。人間の出荷前とはすなわち母親の胎内にいるとき…。羊水の中に浮かんで重力の影響が少ない状況で丸まっている姿勢…、これに近い状態-横向きに寝てエビのように丸まっている体勢-が一番楽だと言えます。ところが、重力に逆らって立とうとすると激痛が走り、力が入らない…。その姿勢、動作を制御する運動ファイルが停止中ですので、立てるわけがないのです。

赤ちゃんが歩けるようになるまでの運動発達段階モデルは「寝返り⇒おすわり⇒ハイハイ⇒つかまり立ち⇒あんよ」ですので、初期化されてしまった大人も、回復する過程はこれと同じ段階モデルを順次経ていくことになります。ただし、赤ちゃんはその過程で失敗しても激痛を伴うことはありませんが、大人の場合は伴うことに…。

小林さんも初診時の治療によって、まず寝返りが出来るようになり、その後次々に各段階をクリアされて、最後は“あんよ”まで回復されました。ただ、翌朝には初期化の状態に逆戻り(後述しますが私の臨床経験において小林さんのようなケースは稀…)。

腰下肢制御ファイルの特徴はそのほとんどが抗重力筋の活動であり、重力下に生活する人類だからこそ同ファイルが最大容量の運動プログラムとなり得ます。一方、無重力空間では同ファイルが最大容量にはなり得ず…、そもそも運動プログラム自体が小脳の負担にならないため、ぎっくり腰は起きないのでは…。つまり「宇宙船内にいる飛行士はぎっくり腰にならない」と、私は考えます。

この考えを応用させて想定し得るぎっくり腰の治療法として「一定時間、無重力空間に身を置く」というものが、もしかすると有効かもしれません。将来的に宇宙エレベーターが実現した際は、私の考えを証明することができるかも…。

ちなみに肩制御ファイルのエラーが四十肩であり、同プログラムのシャットダウンが四十肩激痛発作(フローズンショルダー)です。首制御ファイルのエラーが頚痛や肩こりであり、同プログラムのシャットダウンが寝違えです。スポーツ障害のほとんどは各運動ファイルのエラーに過ぎず、MRI等による過剰画像診断によって構造的な問題にすり替えられているケースが多く、ジョーブ博士の功績はMRIによる小脳解放を選手にもたらしたことにあります。

さて、再診時の施術によって再び回復した小林さん、歩行もスムースとなり、「ありがとうございます。これなら大丈夫そうです」と帰っていかれました。

そして翌朝、奥様から連絡があり、「主人、おかげさまでだいぶ楽になったみたいです。今日は午後からお店に行くと言ってます…、その前にそちらに寄りたいのですが、予約の空きあります?」と。

お昼頃、小林さんが来院されると、驚きの展開が!診察室で待っていると、なんと、また奥様が入ってこられたのです。「ん?何?まさか…」 「朝は普通に動いていたんですけど、車に乗っていたら途中からまた痛がりはじめて…。車から出られませ~ん」

慌てて外に出ると、ほとんど初診時と変わらない姿の小林さん。さすがの私もこれにはびっくり…。こんな症例は初めて…。これまで多くのぎっくり腰を診てきましたが、以前行っていたAKA‐博田法にせよ、現在のBFIにせよ、たいていは1~2回の施術で事なきを得たものでした。しかし、これほどにも逆戻りしてしまう症例に出遭った記憶はありません。

「小林さん、昨日も言いましたけど、もしかして仕事のことがどうしても頭から離れない感じですか?」

「いいえ、昨夜は久しぶりに好きなDVD観たりして、けっこう忘れてたと思うんですけど…。朝も動けるようになっていたので、ああ、これでようやくお店に行けるって…」

「車の中で、急に痛み出したんですか?」

「ええ、最初の15分くらいはなんともなかったんですけど、20分過ぎたあたりからだんだんと…」

「もしかして、以前車に乗っていて腰痛が悪化したなんていう経験あります?」

「もともと私の持病、坐骨神経痛になったのは、車の運転がきっかけでした…」

「そのときの状況を詳しく聞かせてもらっていいですか」

「あのころ、すごく忙しいときで、まったく休日がない状態が続いていて、ようやく久しぶりに休みが取れて、ああ、今日はゆっくりできると思った日…、妻と娘にねだられて…。結局ドライブに行かされる羽目になって、こんなときまで俺は運転しなきゃいけないのかって…。そしたら、運転中に腰から足辺りがズキズキしはじめて…。それ以来…」

「小林さん、これでようやく謎が解けましたよ。小林さんの記憶に原因が潜んでいたんです。そのときの記憶が脳に残っていて、車に座るという状況が無意識の中にある記憶の扉をノックしちゃうんです。小林さんの自宅からだと、ここまで4~50分くらいかかりますでしょ。ここがもし15分くらいの場所であれば、とっくに治ってるんです。通院のたびに往復2時間近く車に乗っていたことが回復を遅らせる要因のひとつだったんです。だから、もうここに来ないほうがいいです。というか、しばらくは15分以上車に乗らないようにしておいたほうがいいかもしれません」

「いやあ、それを聞いて納得しました。実は都内に出したお店、車で2時間近くかかるんですけど、打ち合わせとかいろいろあって、ここ1カ月間はやたらと運転する時間が長くなってましたから…」

「車に座る姿勢をとらなければ、ちゃんと回復しますよ。大丈夫です」

ついでに言うと、実は小林さん夫婦は最近いろいろありまして、冷戦状態が続いていたんです。そのため、ここまでの道すがら、車中では互いにほとんど無言。奥様からそういう状態にあることを聞いていたことが私の推理の手助けに…。殿方は総じて内実を語ることはありませんので、女性からの情報に頼るしかない場面は多いです…。

今回の小林さんに起きていたことを整理すると以下の通り。

『都内への初出店に際し、奥様にも色々フォローしてもらいことがあったが、冷戦状態にあるため頼むに頼めない。そこに予定納税の問題が降りかかり、本来は奥様に任せていい場面もあったがご自身ひとりで駆けずり回り…。なんとかオープンにこぎつけたお店でもトラブル続出。挙句の果てに自身がぎっくり腰。普段通っている近所の整骨院に行くも良くならず、奥様の薦めに従う形で当院に来るも、その通院手段そのものに痛み記憶を再生させる要因が潜んでいたという皮肉な展開…』

その後、小林さんは無事回復され、都内のお店も順調とのこと。先日奥様から届いたメールの様子から察して、どうやら冷戦状態も終結した模様。万事一件落着。ふうーっ。

その後、小林さんの痛みに対する認識がどう変わったのかは定かではありませんが、私の最後の説明-運転と痛みの記憶の話-に頷いていたときの、あの表情はまさしくこれこそが腑に落ち切った人間が醸し出し得る安堵の微笑だったと、私は感じています。

シャットダウンして停止してしまったターミネーターはその後どうなったか?自力で再起動した後、主人公を守る本来のプログラムが主導権を取り戻し、最後は自らの命と引き換えに任務を全うします。

初診時、小林さんは「好きなこと?ですか…。仕事以外?…、とくに趣味とかもありませんし…。強いて言えばお酒かなあ。でもやっぱり…」と仰っていました。仕事だけが生きがいに見える小林さんですが、今回の一件で再起動を果たした小脳は思考プログラムの一部を新たに最適化させた可能性が…。奥様からのメールを読んで、私はそんな風に感じています。


BFI 研究会代表 三上クリニカルラボ代表 三上敦士                  

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