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外傷の痛み(ハードペイン)を再考する

2016/12/16

外傷の痛み(ハードペイン)を再考する

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かつて私は1日の来院者が300人超の整形の副院長を務めながら、運動器プライマリケアにおける疼痛管理および外傷管理を担っていた時期があります。

毎日のように数十枚以上のレントゲン写真を読影しつつ、痛みと画像診断の関係を追究し、骨折や脱臼を含めあらゆる外傷管理および腱鞘炎や関節炎、entrapment neuropathy (絞扼性神経障害)に対する保存療法、そしてAKA-博田法およびANTを軸に据えた回復期リハおよび痛みの治療を実践し続けたキャリアをバックグランドにして、現在はBFI 研究会(脳と痛みの関係を追究する臨床研究会)を主宰しています。


私の整形時代の臨床にあっては、外傷に対してもAKAやANTを行うことで痛みの原因を追究しました。当時そのような取り組みを行っていたのは私くらいのもので、日本AKA医学会においても外傷の痛みが論じられることはほとんどありませんでした。関節包内運動の異常(関節面の引っかかり)を説明する際に肘内障が引用される場面を除き…。

※(肘内障のメカニズムを再考する⇒関節反射ショック理論

新鮮外傷にAKAあるいはANTを行っていくと、その場で痛みが改善する(例えばVAS10→6になるような)ケースが多く、中にはほぼ消失してしまうことも…。

こうした臨床データの蓄積によって当時の私が下した結論は「関節機能異常(JD)を抱えている生体はケガを負いやすく、かつ外傷の痛みにJD由来の痛みが合併しているケースが多い」というものでした。

当時AKAの開発者である博田節夫先生に私の姿勢に誤りがないか何度か確認したことがありますが、励ましのお言葉を頂戴することはあっても否定はされなかったと記憶しています。

ただしその後BFI の臨床によってJD由来とされる痛みの多くは、後述するソフトペイン(脳由来の痛み)ではないかという視点が浮上しています…。

さらにentrapment neuropathy(胸郭出口syn・手根管syn・円回内筋syn・後骨間神経syn・肘部管syn等々)およびCRPS(RSD)に対するANTやBFIの臨床および心理学的カウンセリング等を通して、末梢神経変性と痛みの乖離現象に気づく契機となり、これが今日当会が掲げるスタンスのひとつ-神経の圧迫と痛みの関係および痛みの真の成因について中枢の観点から見直す必要性-に帰結しています。

とくにentrapment neuropathyにおける神経変性と痛みや感覚異常との関係性を保存療法の視点で究めていった際、成書の記述とは相容れない逕庭が覚知され、このことは医療者として絶対に看過できず…、そして現在、脳の可塑性の深淵を知るに至り“痛み記憶の再生理論”を…。

下の画像はBFI研究会が掲げるニューロフィクス-脳膚相関に則り、皮膚受容器および脳の可塑性を考慮して行う固定- 。こうした視点による外傷ケアが痛みや腫脹のコントロールをスムースにさせることが分かっています。

Nuerofixed
では、なぜニューロフィクスが疼痛コントロールに有利に働くのでしょう?そこにある除痛メカニズムを考えたとき、ハードペインという単一の見方では説明のつかない現象が多々あることに気づかされます。

※ ・ハードペイン…組織の障害を知らせる痛み(外傷や炎症由来)
  ・ソフトペイン…脳の情報処理システムのエラー
  ・ハイブリッドペイン…上記両者の混成痛


ほとんどの医療者は「外傷の痛みは純然たるハードペインだ」と認識しておられることと存じます。組織の障害を感知した侵害受容器が脳に痛み信号を送信し、さらに現場の2次性炎症による発痛物質(ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン等々)が…、と。

ところが、外傷に対して多重極微の触覚刺激-BFI-を行うと、急性期の痛みが激減し、さらに腫脹までも消退するという現象があるのです。

※BFI…体性感覚刺激による脱感作と再統合法と定義される徒手医学。全身の関節周囲の皮膚・骨への多重極微の刺激を介して脳の可塑性を促す技術(つまりソフトペインを改善させる手段)。


BFIという技術は「術者の指先で微かに触れるだけ」という極めて繊細な触覚刺激に過ぎません。したがって、このような非侵襲介入によって痛みが消える現象を合理的に解釈するためには「施術によってハードペインが改善した」と考えるより、「そもそも痛みの本態がハイブリッドペインであったから」と考えたほうが自然ではないかと…。

例えば「癌性疼痛は典型的なハードペインであろう」と考えている人が多いと思われますが、これについてもその多くはハイブリッドペインである可能性が高いというのが私の見方です。その理由については長くなるのでここでは述べませんが…。

※(小児の急性白血病に見られた骨関節痛がBFI によって消失という報告があります。その詳細についてはこちらのページ後半で紹介しています)


外傷における純然たるハードペインというものは、組織が傷ついた瞬間の侵害受容器からの信号入力とそれに続く炎症による痛みですが、このとき後者の炎症由来の痛み(ハードペイン)に付随してソフトペインが発生している可能性があります。

脳の情報処理システム(感覚処理系)が正常であれば、受信した情報(炎症)に沿った痛みだけを生成するわけですが、そこに過去の体験や記憶の回路が悪さをすると、ソフトペインが同時に発生し得うるのです。

痛み記憶の再生理論で詳解しておりますが、言葉の響きとは裏腹にソフトペイン”を侮るなかれ、脳が本気で痛み回路のスイッチを入れると、本当に信じられないほどの激痛を生み出します。

ハードペインに同期し得るソフトペインの有無や強弱には個体差があるため、ハードペインだけを受信している脳が、例えば“2レベル”の痛みを生成するのに対して、ソフトペインを伴っている脳では“10レベル”の痛みすなわちハイブリッドペインを生成する可能性があるのです。

後者の脳に対してBFIを行うと、ハイブリッドペインの内のソフトペインだけが消えるため、VAS10→2という結果が得られるというわけです。

したがって、外傷管理において数日以上続くような痛みに対してはハイブリッドペインの可能性を念頭に置いてフォローする必要があり、腫脹あるいは浮腫に対しては、交感神経による血管コントロールの問題ひいてはCRPS(RSD)の問題を考えるすなわち自律神経の状態を顧慮する必要があります。

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上の写真はCRPS(RSD)症例に見られる交感神経の機能異常(血管運動の制御不全)を捉えており、全例において甚大なるハイブリッドペインが…。

ハイブリッドペインや自律神経の問題を考えるということは、すなわち中枢の働きに目を向けることを意味し、同じ中枢でもより高次の働きにフォーカスするならば、視床をはじめ前頭前野、体性感覚野、帯状回、島皮質、そして小脳といった脳全体の機能に着眼せざるを得ないという帰結になります。

昨今の認知神経科学の発展は目覚ましいものがあり、人間の痛みを考える上で、もはや欠かせない領域と言っても過言ではないほどです。

そこから得られる知見の数々はヒトの感覚処理系における極めてファジーな要因を浮き彫りにしており、さらに同処理系に強い影響を与え得る情動システムの問題も多く取り上げられています。

肉体に外傷を負った際、無意識に近いレベルで醸成され得る不安感、恐怖心等の強弱の違いが痛みや腫脹の程度差となって現れる…、そういう可能性があるということです。

私は全ての症例において問診時スポーツ歴を聴取しますが、ある70代の女性患者はスポーツ歴が一切なく、けがの既往歴も病歴もほとんどなく、病院に足を運んだのは出産のときだけ…。

で、その方は足首の軽い捻挫で受診されたのですが、外傷の経験値がゼロだった-けがに対するある意味“免疫”のようなものがなかった-ために、「このまま歩けなくなっちゃったらどうしよう…」という異常な不安に襲われ、次第に腫脹のコントロールが効かなくなって、ついには慢性的な浮腫へと…。

なにしろ外傷経験がまったくないまま高齢にさしかかっているご本人…、「大丈夫ですから」という当方の説明に対して「馬の耳に念仏」状態。ただただ恐怖心だけが募るばかり…。

私のような人間に言われても無意識の安心スイッチが入らないのだろうと思い、大学病院での診察もしていただき、そこでも「大丈夫ですよ」と念を押されたにも関わらず、本人の不安が雲散霧消するまで…、相当な時間がかかりました。

病態としては典型的なCRPS(RSD)交感神経タイプでしたが、幸い不全型でしたので最終的には事なきを得ることができました。

通常はこの症例とは真逆に、外傷や慢性痛の既往歴の濃厚な方にこそ不安定な現象が現れやすいわけですが、中にはこうした例外もあるということです。

認知神経科学の知見に頼らずとも、日々の臨床でこうした症例に遭遇している医療者であれば、ヒトの情動システム(感情を制御する神経回路)と運動器との関係性は推して知るべしといったところで、言うに及ばずの話かもしれませんが…。

運動器プライマリケアの現場においては、医療者が思っている以上に実はハイブリッドペインは相当数に潜在しています。その証左となり得る症例(私の母親に起きた脊椎圧迫骨折???)の詳細をご覧ください。


◇プライマリケアに役立つ固定法(三上式プライトン固定)
1)
私が固定装具に機能性と美しさを求める理由
2) ニューロフィクス(neuro-fixed)という視点
3) 外傷の痛み(ハードペイン)を再考する
4) 母指3次元固定法(母指球安定型プライトン)
5) フィンガートラクション-その意義について- 
6) 膝関節における前面窓式プライトン固定 
7) 前腕骨骨折における上肢ギプス二重法(前腕部割り入れ併用式) 
8) 足底プライトンシーネ(元ほねつぎの妻が骨折!
9) 足関節捻挫におけるf(ファンクショナル)-プライトン固定
10) 腓腹筋ラッピングシーネ

11) 体幹プライトンシーネ(元ほねつぎの母が脊椎圧迫骨折???) 

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→三上式プライトン固定のセミナーのご案内(f-プライトン固定セミナーの開催日程)

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